コラム

第八十三回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のアソシエイト・弁護士である中井成紀先生に執筆していただきました。中井先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、フェア・ディスクロージャー・ルールについての概要や、導入の趣旨、その影響について、とりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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フェア・ディスクロージャー・ルールの導入に向けて
西村あさひ法律事務所
アソシエイト 弁護士 中井 成紀
2017/1/16

1.フェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」)導入の趣旨・意義等

 2016年12月7日、金融審議会 市場ワーキンググループ(以下「市場WG」)より「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告~投資家への公平・適時な情報開示の確保のために~」(以下「報告書」)が公表されました。これを受けて、金融庁は本年の通常国会にFD導入のための金融商品取引法改正案を提出する方針であると報じられています。

 FDルールとは、端的には、公表前の内部情報を株式の発行者(上場会社)が第三者に提供する場合に当該情報が他の投資家にも提供されることを確保するルールです。欧米やアジアの主要国においては既にFDルールが整備されており、日本においてもルール化を求める声は以前から一定数ありましたが、今般、発行者の内部情報を顧客に提供して勧誘を行った証券会社に対する行政処分の事案において、発行者が当該証券会社のアナリストのみに未公表の業績に関する情報を提供していたなどの問題が発生したことなどを契機として、個人投資家や海外投資家を含めた投資家に対する公平かつ適時な情報開示を確保し、全ての投資家が安心して取引できるようにするための環境整備としてFDルールを導入すべきとの議論が本格化し、法制化の見通しに至りました。

 FDルールの導入には、

発行者側の情報開示ルールを整備・明確化することで、発行者による早期の情報開示を促進し、ひいては投資家との対話を促進する
アナリストによる、より客観的で正確な分析及び推奨が行われるための環境を整備する
発行者による情報開示のタイミングを公平にすることで、いわゆる「早耳情報」に基づく短期的なトレーディングを行うのではなく、中長期的な視点に立って投資を行うという投資家の意識変革を促す


 という積極的な意義があると報告書では指摘されています。

2.FDルールの概要

 FDルールは、端的には、上記のとおり公表前の内部情報を上場会社が第三者に提供する場合に当該情報が他の投資家にも提供されることを確保するルールです。そこでは、ルールの対象となる情報の範囲、対象となる情報提供者の範囲、対象となる第三者(情報受領者)の範囲に一定の限定がなされるとともに、一定の情報提供については、適用除外とされる予定です。また、対象となる情報が対象となる情報提供者によって対象となる情報受領者に提供された場合には、当該情報を一定の公表方法によって速やかに公表にすることが必要となり、実効性確保のために一定のエンフォースメントも規定される予定です。

 報告書によれば、日本で導入されるFDルールの概要は以下のとおりです。

FDルールの対象となる情報の範囲
「投資判断に影響を及ぼす重要な情報」とされています。
FDルールの対象となる情報提供者の範囲
上場会社の役員のほか、従業員、使用人及び代理人のうち、下記③の情報受領者へ情報を伝達する業務上の役割が想定される者に限定される見込みです。
FDルールの対象となる情報受領者の範囲
(i)証券会社、投資運用業者、投資顧問業者、投資法人、信用格付業者などの有価証券に係る売買や財務内容等の分析結果を第三者へ提供することを業として行う者、及び(ii)その役員や従業員から得られる情報に基づいて上場会社の有価証券を売買することが想定される者が想定されています。なお、報道機関は除外される見込みです。
適用除外
FDルールの対象となる上記③に該当する者への情報提供であっても、当該情報受領者が上場会社に対して守秘義務を負っている場合には、適用除外となる見込みです。
他方で、上記③に該当する者への情報提供を行った際にはこの情報受領者が守秘義務を負うことから公表を行わなかったが、その後、この情報受領者が守秘義務に違反して、上記③に該当する守秘義務等を負わない他の者に情報を伝達したことを上場会社が把握した場合には、上場会社に情報の公表が必要となります。
情報の公表方法
法定開示(EDINET)及び金融商品取引所の規則に基づく適時開示(TDnet)のほか、当該上場会社のホームページによる公表が認められる予定です。
運用・エンフォースメント
FDルールに抵触した場合、上場会社にまずは情報の速やかな公表を促し、これに適切な対応がとられなければ、行政的に指示・命令を行うことが示されています。なお、市場WGにおける議論によれば、罰則は規定されても発動は基本的に想定されておらず、また、課徴金も設けられない見込みです。

3.FDルールの導入が上場会社に与える影響

 上記のとおり、FDルールの対象となる情報は、「投資判断に影響を及ぼす重要な情報」(以下「重要情報」)とされており、これは、具体的には、金融商品取引法に限定列挙されているインサイダー取引規制の対象となる情報よりもやや広く、上場会社や金融商品に関係する未公表の確定的な情報であって、公表されれば株価に重要な影響を及ぼす相当の蓋然性があるもの(典型的には、今後の経営計画や収益予想等に関わる数値等の情報)まで含まれるとされています。

 FDルールの導入後は、重要情報について、上場会社が一部の投資家等にのみ伝達して放置していることが上場会社にとって法令違反(金融商品取引法違反)となることが見込まれます。

 そのため、FDルールの導入・施行に先立って、上場会社は、自社に関するいかなる内部情報がFDルールの対象となる重要情報に該当するのかを整理し、当該整理に基づいて情報管理を行うことが必要となります。いかなる情報が、各上場会社によって「投資判断に影響を及ぼす重要な情報」は異なるため、報告書においても、上場会社と投資家の対話を通じて何が重要情報なのか事例を積み上げることが望ましいと指摘されており、各社において試行錯誤することが求められます。

 他方で、FDルールの導入に伴って、投資家への情報提供について萎縮してしまうのはFDルールの導入趣旨から外れると考えられます。萎縮するのではなく、上記の積極的意義に照らして、発行会社としてもFDルールの導入を積極的に評価し捉えることが求められています。

 報告書においても、FDルールの導入に当たっては、ルールの趣旨についての関係者への啓発活動を行うなど、上場会社による早期の情報開示を促進し、ひいては上場会社と投資家との建設的な対話を促進するとの意義が果たされるような環境整備を行っていくことが重要であると指摘されています。上述したとおり、運用・エンフォースメントについて、FDルールに抵触した場合に、行政的な指示・命令に先立って、上場会社にまずは情報の速やかな公表を促すことや罰則の発動に慎重な態度で臨むことが示されていることは上場会社への萎縮効果に配慮したものです。

 上場会社としては、今般のFDルールの導入を、バランスのとれたディスクロージャーポリシーを戦略的に構築・導入し、投資家との建設的な対話を促進していく一つの積極的な契機とすべきと考えられます。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    アソシエイト 弁護士 中井 成紀

略歴

2010年
東京大学法学部第一類卒業
2012年
東京大学法科大学院修了

主な著書

「会社法実務相談」商事法務(共著)

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