コラム

第八十二回目の専門家コラムは、森・濱田松本法律事務所のパートナー・外国法事務弁護士である康石先生に執筆していただきました。康先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、一部の外商投資企業の設立及び変更が、審査認可制度から届出制度に変更となる法改正について、その経緯及び概要や、中国におけるM&A取引の実務に対する影響についてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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届出制への移行と中国M&A取引への影響 -近時の法改正の影響を踏まえて
森・濱田松本法律事務所
パートナー・外国法事務弁護士 康 石
2016/12/15

1.はじめに

 中国において、2016年10月から、外資参入特別管理措置を実施する項目に係らない外商投資企業の設立及び変更について、従来の事前認可制度から届出制度に変更されました。これにより、外国企業・個人による中国国内での企業設立及びその後の一連の変更について、関連する投資領域及び金額等に関わらず、すべて事前認可を求めたことが、今後はほとんどの場合において届出を行うことで済むことになりました。本稿においては、上記法改正の経緯及び概要を概観した上で、かかる法改正が中国におけるM&A取引の実務に対する影響について説明することにします。

2.法改正の経緯

 中国では、1979年の「中外合弁経営企業法」、1986年の「外資企業法」及び1988年の「中外合作経営企業法」(上記三つの法律を総称して、「三資企業法」と言います。)により、すべての外商投資企業の設立及びその後の変更(例えば、増資・減資、経営範囲の変更、持分譲渡、合併・分割、解散清算等)について、商務部門の事前認可を必要とする制度を確立しました。

 2013年8月から、全国人民代表大会常務委員会は、上海自由貿易区において「三資企業法」の特定条項の適用を変更できる権限を国務院に授与し、これにより、ネガティブチェックリストで定める分野に該当しない外商投資企業の設立及び変更について事前届出制度を実施することが、上海自由貿易区において3年間の時限で試験的に行われるようになりました。2013年9月に、上海自由貿易区において適用されるネガティブチェックリストが公表されるようになり、2015年にはかかるリストが広東、天津及び福建の自由貿易区においても適用されるようになりました。

 上記3年間の試験的運用期間が完了する時期と合わせて、以下のような一連の法改正が行われ、現在は中国全土において、ネガティブチェックリスト外の分野における外商投資企業の設立及び変更について届出制度が実施されるようになりました。まず、2016年9月3日、全国人民代表大会常務委員会は、「三資企業法」等における行政審査認可条項を修正し、国家が外資参入特別管理措置(以下、「ネガティブチェックリスト」と言います。)を実施する項目に係らない外商投資企業の設立及び変更事項について、審査認可制度から届出制度に変更する旨を規定しました。その後、2016年10月8日、商務部が「外商投資企業設立及び変更届出管理暫定規則」(以下、「本暫定規則」と言います。)を公布し、届出制度の詳細について規定しました。同日、国家発展改革委員会及び商務部は共同で2016年第22号令を公布し、「外商投資産業指導目録」(2015年改訂版)における制限類、禁止類及び奨励類の中、持分比率及び高級管理職について特別な規定を設けた項目を、外資参入特別管理措置を実施する範囲とするとし、新しいネガティブチェックリストを公表することなく、既存の「外商投資産業指導目録」を活用することを明確にしました。

3.法改正の概要

 ネガティブチェックリストに係らない外商投資企業の設立のほか、ネガティブチェックリストに係らない以下の変更事項が届出の対象となります。すなわち、①外商投資企業の基本情報(名称、登記住所、企業類型、経営期限、投資業界、業務類型、経営範囲、輸入設備免税範囲該当有無、登録資本、投資総額、組織機構の構成、法定代表者、最終的実質支配者、連絡担当者、連絡方法)、②外商投資企業の投資者の名称・氏名、国籍・地域、住所、引受出資額、出資方法、出資期限、資金の由来地、③持分変更、④合併、分割、終了、⑤外商投資企業の財産の対外抵当権設定、譲渡、⑥中外合作企業の外国合作者の投資先行回収、⑦中外合作企業の経営管理委託(本暫定規則第6条)。 

 設立の場合の届出のタイミングについては、事前届出(企業名称事前審査認可後、営業許可証取得前)又は事後届出(営業許可証取得後30日以内)のいずれを選択することができるとされています(本暫定規則第5条)。これに対して、変更の場合の届出のタイミングは、変更事項発生後30日以内とされており、事後届出制度のみが規定されています(本暫定規則第6条)。なお、変更事項発生とは、外商投資企業の最高権力機関が決議を行った時点又は法律法規で別途効力発生要件を定めている場合にはかかる要件発生後とされています。商務部門は、3営業日以内に届出を完了しなければならないとされており、従来の審査認可制度に比べて政府手続の所要期間が大幅に短縮されることになります。

 事前審査認可制度が廃止された後、外商投資企業に対する事後監督管理が重要視されるようになり、①抜取検査、②通報に基づく検査、③関連部門又は司法機関による提案又は報告に基づく検査、及び④職権に基づく検査により、本暫定規則の順守状況、ネガティブチェックリスト上の禁止類への投資や制限類への認可なしでの投資の有無、届出情報の真実性、正確性及び完全性等に対して検査することとされており、違反があった場合、期限内の是正、3万元以下の制裁金、その他の法令に基づく罰則に処することができるとされています。

4.中国のM&A取引への影響

 今回の法改正により導入された届出制度は、外国企業が外商投資企業ではない純粋な中国企業を買収する場合、又は外国企業が中国の上場会社に投資する場合には適用されません。従って、外国企業が純粋な中国系企業とM&A取引(持分買収又は増資引受)を行う場合、又は中国の上場企業に投資する場合には、ネガティブチェックリストに係るか否かと関係なく、商務部門の認可を必要とします。これに対して、中国と関連するM&A取引において、外商投資企業に係るM&A取引については、届出制度が実施される余地があります。例えば、外国株主が中外合弁会社の持分を合弁相手又は第三者に譲渡してエグジットする取引、外国企業が外商投資企業の外国株主又は中国株主の持分を買収する取引又は当該外商投資企業の増資を引き受ける取引、中国国内に設立された外商投資企業がその他の中国企業を買収するか、又は、その他の中国企業の投資を受け入れる取引等は、ネガティブチェックリストに係らない限り、届出だけで済むことになります。

 従来の制度においては、M&A取引に関する契約(持分譲渡取引契約や増資契約、合併契約並びに合弁契約及び定款等)も事前認可審査の対象となっており、認可を取得しない限り、契約書が効力を発生しないとされていたため、M&A取引に関する契約を交渉する際、特定の条項(例えば、コールオプション条項、譲渡対価分割支払条項、譲渡対価調整条項等)が認可を得られるか否かが不透明であったこともあり、当事者間で自由に契約書の内容について交渉・合意することが制限されていました。しかし、届出制度実施後、M&A取引に関する契約自体については審査認可又は届出の対象となっておらず、当局の審査を不要とすることから、契約交渉の自由度が高まってくると言えます。

5.終わりに

 今回の法改正を受けて、以前注目を集めた「外国投資法(草案)」が制定されるか否か(同草案で予定していた届出制度及びネガティブチェックリストによる管理制度等はすでに今回の改正で実現されているため)、VIEストラクチャーを実施している企業の合法性問題やかかる企業への影響(本暫定規則において、外商投資企業の実質的支配者の情報も届出の対象となっており、これには、VIE契約により支配している者も含まれると解されているため)等について、活発な議論が行われており、届出制度によるM&A実務への影響については、引き続き注目する必要があります。

執筆者紹介

  • 森・濱田松本法律事務所
    パートナー
    外国法事務弁護士(中国法)
    中国及びニューヨーク州弁護士
    康 石

略歴

1997年
北京大学法学部卒業
1997年
北京中倫法律事務所で執務
1998年
中国律師資格取得
1999年
中国律師登録
2001年
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程卒業
2004年
ハーバード大学法学部大学院卒業
2005年
ニューヨーク州弁護士登録
2005年
ニューヨーク市Cleary Gottlieb Steen & Hamilton LLPで執務(~2006年)
2006年
ニューヨーク市Debevoise & Plimpton LLPで執務(~2008年)
2008年
ニューヨーク市Sullivan & Cromwell LLPで執務(~2009年)
2011年
上海国策法律事務所で執務(~2014年)
2014年
外国法事務弁護士(中国法)登録

主な著書

2016年1月
「中国経済六法2016年版」日本国際貿易促進協会(共著)
2015年1月
「中国経済六法2015年増補版」日本国際貿易促進協会(共著)
2012年1月
「中国ビジネス法必携2012」ジェトロ(日本貿易振興機構)(共著)
2011年2月
「中国における価格独占禁止に関する規定の制定について」
 国際商事法務Vol.39 No.2

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