コラム

第八十回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のパートナー 弁護士である松本絢子先生に執筆していただきました。松本先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、コーポレート・ガバナンスの視点から注目を浴びている「役員報酬制度」について、背景や種類などを取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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役員報酬制度の改革
西村あさひ法律事務所
パートナー 弁護士 松本 絢子
2016/10/17

1.役員報酬制度改革の背景

 近時、コーポレート・ガバナンスの視点から役員報酬制度が注目を浴びており、これまでの報酬体系を見直す企業も増えているようです。

 日本では、諸外国に比べ、役員報酬額が低い水準に止まっており、グローバル競争に打ち勝つために優秀な人材を確保するという攻めのガバナンスの観点から十分でないと言われてきました。また、固定の現金報酬が中心となっており、ストックオプションも併せて導入している企業もあるものの、全体として報酬の業績連動性が低いことから、固定報酬並びに短期及び長期業績連動型報酬による報酬ミックスの見直しを行い、特に長期的な業績向上のインセンティブ付けをもっと行うべきであるとの指摘もなされています。

 中でも、自社株報酬の導入は、役員も株主としての利害関係を共有し、株主視点も加味した継続的な企業価値向上を目指した積極的な企業経営が期待できるとして、機関投資家等からも好意的に捉えられているようです。

 そこで、2015年6月に公表されたコーポレートガバナンス・コードにおいても、中長期的業績との連動性や自社株報酬に着目したインセンティブ報酬の導入が推奨されています。

原則4-2
 経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。

補充原則4-2①
経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。


 また、2015年7月24日に経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会の報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」においても、中長期的な企業価値向上のために新しい株式報酬の導入についての考え方が示されています。

2.株式報酬制度の類型

 これまで日本における株式報酬はストックオプションが主でしたが、最近では1の流れを受け、欧米にて普及している①Performance Share(PS: 中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式報酬)や②Restricted Stock(RS: 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬)をどのような形で日本に導入すべきかについて、盛んに議論がなされています。

(1)税制適格ストックオプション:租税特別措置法29条の2の要件を満たすストックオプション(予め定められた権利行使価額で会社の株式を取得することのできる新株予約権を付与するもの)

 ストックオプションを付与された者は株価上昇時に当該権利を行使して会社の株式を取得・売却することにより株価上昇分の報酬が得られる仕組みです。

 企業の業績向上による株価上昇と連動して報酬額が増加することからインセンティブ機能を有するとされていますが、株価が権利行使価額を超えない限り機能しないという限界もあります。

 また、会社法上の新株予約権を用い、金融商品取引法上も有価証券(2条1項9号)に該当することから、手続等が法定され明確ではあるものの、登記や開示の負担に加え、権利付与段階で役員に帰属するため個別管理を要し、会社の事務負担が大きいというデメリットがあります。

 さらに、税務上の優遇措置(権利行使時の課税は繰り延べられ、株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額に対して譲渡所得課税がなされます。)を受けるためには以下の要件を満たす必要があり、多様な場面で活用したい場合には向かないといえます。

<税制適格ストックオプションの要件>
付与対象者 ・発行会社及びその子会社の取締役、執行役又は使用人である個人及びそれらの者の一定の相続人(但し、一定の大口株主及びその特別関係者を除く)
権利行使期間 付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過するまで
権利行使価額 ・契約締結時における1株当たりの時価相当額以上
・権利行使価額の合計が年間1200万円を超えない
その他 ・新株予約権の譲渡制限
・付与決議がされた募集事項に反しない
・権利行使により取得する株式について金融商品取引業者等の間で予め締結される管理等信託の取決めに従い、取得後直ちに管理等信託がなされる


(2)1円ストックオプション:極めて低廉な権利行使価格を定めるストックオプション

 会社の事務負担は(1)と同様ですが、多少柔軟な設計も可能であり、例えば権利行使期間を長期とすることで長期インセンティブ機能が期待できますし、権利行使期間を退職後と設定し、固定的・年功的な退職慰労金制度の代わりに新たな退職金制度として導入する企業も増えています。

 そして、権利行使価額も時価に縛られず1円等の低廉な価格にすることで権利行使時の経済的負担を実質的になくし、役員に株式価値とほぼ同等の経済的利益を与えることができます。

(3)株式給付信託:会社が報酬相当額を信託に拠出し、信託が当該資金を原資として市場等から株式を取得管理し、一定の条件に従い役員に当該株式を交付するスキーム

 信託契約上の柔軟な制度設計により、各企業の実態に応じてKPIやポイント制の設定等を通じてきめ細かな調整が可能となり、設計次第で1つのパッケージでRSとしてもPSとしても機能するようにカスタマイズできるという点が大きなメリットとなります。

 また、新株予約権タイプと異なり、役員に個別に紐付けて管理する必要はなく、信託内で一括管理するため、会社の事務負担は軽くなります。

 近時、信託銀行による商品開発等もあり、このタイプを導入する企業が飛躍的に増えているようです。

(4)特定譲渡制限付株式:役員に譲渡制限が付された現物株式を報酬として付与し、勤務条件又は業績条件が達成されないこと等の場合には無償取得することが定められているもの

 今年度税制改正により、一定の要件の下で譲渡制限解除時に給与課税がなされ(所得税法施行令84条1項)、譲渡制限解除時が属する事業年度において事前確定届出給与として法人税の損金算入が認められることになりました(法人税法34条1項、54条1項、同施行令111条の2第5項1号)。

<特定譲渡制限付株式の要件>
①株式を役務提供の対価として交付
②交付対象株式は役員から役務提供を受ける法人又はその直接・完全親法人の株式
③交付対象株式に係る一定期間の譲渡制限
④交付対象株式に会社の無償取得事由が定められている
⑤役務提供の対価として役員に生ずる債権の給付と引換えに株式交付


 ここにいう株式の譲渡制限とは、種類株式を用いるほか、実務上の負担を考慮し、当該役員との契約上の制限によることも可能と解されています。

 そして、条件の設定次第でRSとしてもPSとしても機能させることができますが、構造上、RS的側面が強く、きめ細やかな調整向きではないと思われます。

 特定譲渡制限付株式については、経済産業省産業組織課より公表された「『攻めの経営』を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる『リストリクテッド・ストック』)の導入等の手引~」で詳述されており、今後このタイプの活用も期待されます。

3.おわりに

 このように日本でも様々な役員報酬の選択肢が提示されてきたことを受け、各企業においては投資家等に対してどのようなストーリーをもって見せたいかを考え、それに沿ったプランを構築していく必要があると思われます。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー 弁護士
    松本絢子

略歴

2003年
上智大学法学部法律学科卒業
2012年
ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M.)
2012年-2013年
米国三菱商事会社(ニューヨーク)出向
2013年
北米三菱商事会社 出向

主な著書

2016年8月
「特集 もっと伝わる法務英語 誤解を防ぐ! 法務英語の落とし穴(1)契約書」(ビジネス法務2016年10月号)
2016年5月
「新しいD&O保険への実務対応[下] - 保険料全額会社負担の解禁を受けて-」(旬刊商事法務No.2101(2016年5月25日号))
2016年5月
「「コーポレート・ガバナンスの実践」を踏まえた会社補償とD&O保険の在り方」(損害保険研究第78巻第1号(2016年5月号))

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