コラム

第七十八回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、税に関する用語のうち、何故そのような言い方をするのかということが分からない用語についての所感をお述べいただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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税の世界には分かりにくい用語がある
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2016/8/15

1.「所得」

 「所得」という用語は、所得税法が明治20年に制定されて以来、現在まで百数十年にわたって用いられてきたわけですが、その定義は、未だ示されていません。

 この「所得」という用語に関しては、英語では「income」となっていますので、「収益」とすべきではないかという意見があっても、決しておかしなことではありません。

 「所得」を「収益」という用語に置き換えるとすれば、「所得税」は、「収益税」と呼ぶことになります。そして、法人税は、法人の「所得の金額」に対して課されるものではなく、法人の「収益の額」に対して課されるものということになります。しかし、この「収益の額」は、法人税法22条2項(益金の額)において益金の額を構成するものとされていることから分かるとおり、純額(ネットの金額)ではなく、総額(グロスの金額)を示す用語ですから、現在の「所得の金額」とは異なるものです。

 それでは、「利益」という用語にしてはどうか、という意見もあり得るでしょう。「利益」は、純額を示す用語ですから、「収益」のような問題はありません。

 「所得」という用語を「利益」という用語にすることにしたとすれば、「所得税」は「利益税」と呼ぶことになり、法人税は、法人の「利益」に対して課されるものということになります。

 このように、「所得税」ではなく、「利益税」と呼ぶことにすれば、特に「利益」を定義せずとも、それがどのような税かということがかなり明確になりますし、法人税に関しても、同様です。
 特に、現在の法人税に関しては、「事業利益税」と呼ぶのが実態に合っているように思われます。

2.「給与」

 「給与」という用語も、「所得」という用語と同じように、明治時代に作られたものとのことですが、民間の企業の従業員や役員が勤務や役務提供の対価として受け取るものに用いるのが適当か否かということに関しては、異論があっても決しておかしなことではないと思われます。

 所得税法や法人税法において「給与」と呼ばれているものの大半は、税以外の世界では、「給料」や「賃金」などと呼ばれることが多くなっています。

 特に、平成22年度改正により、法人税法において「役員報酬」まで「給与」と呼ぶこととしたことに関しては、その適否に疑問を持つ方も少なくないでしょう。

3.「課税」・「税制」

 「国際課税」という用語は、かなり古くから用いられてきたわけですが、「国際課税」の中の「外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)」、「移転価格税制」、「過小資本税制」などにおいては「税制」という用語が用いられており、「外国税額控除制度」においては、「制度」という用語が用いられており、いずれも「課税」という用語は用いられていません。

 課税を行う側からすると、「課税」という用語には、特に違和感はなく、むしろ当然の呼び方のように感じられるはずです。

 しかし、課税を受ける側からすると、税の仕組みを「課税」という用語で呼ぶことには、やや違和感があるはずです。

 また、「国際課税」の中の諸制度が「課税」と呼ばれているのであれば、全体を「課税」という用語で呼ぶことにも合理性があると考えられますが、「国際課税」の中の諸制度を「税制」や「制度」と呼びながら、全体を「課税」と呼ぶことに関しても、合理性がないように思われます。

 このため、筆者は、「国際課税」ではなく、「国際税制」と呼ぶことにしています。

4.「税務」

 「税の世界では、「税務上」など、「税務」という用語が頻繁に用いられますが、この「税務」という用語も、本来は、課税を行う側の事務を指す用語であり、課税を受ける側が用いる用語ではありません。

 「税務上」とは、「税法上」ということであるのか、「通達上」ということであるのか、あるいは、それらのいずれでもない「執行上」ということなのか、良く分からない曖昧な用語です。

 このため、筆者は、従来から「税務上」という用語はできるだけ用いないようにしています。

 特に、税理士は、依頼人に対して課税関係を説明する際には、「税務」という意味の曖昧な用語はできるだけ用いるべきではない、と考えます。

 税務調査において、調査官から「税務上、・・・は、課税となる」と言われたら、課税の根拠を明確にするために、「税法上」、「通達上」、「執行上」のいずれであるのか、ということを質してみると良いかもしれません。

5.「租税」

 「租税」という用語に関しても、何故「租」という用語が付いているのかという疑問を持ったことがある方々も少なくないと思われます。

 「租税法」と「税法」、「租税回避」と「税回避」で何が違うのかと考えてみても、理由はよく分かりません。

 筆者も、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)等の規定に関しては、「税回避」ではなく、「租税回避」という用語を用いて説明をしていますが、これは、現状、「租税回避」という用語が多く用いられていることを考慮したものであり、「租税回避」という用語が「税回避」という用語よりも適切であると判断してそのように説明をしているわけではありません。

 かつては、国家が徴収する財貨やサービスのことを「租」と呼んだわけですが、そのようなものは遥か以前に無くなり、「税」でない「租」は存在していないわけです。

 それにもかかわらず、何故、「税」だけでなく「租」という用語まで用い、しかも、「税租」ではなく「租税」と呼ぶのでしょうか。

 今後、「租税」という用語は、「税」という用語に収斂していくものと考えられます。

最後に

 税の世界の分かりにくい用語を良く見てみると、上記の例からも窺われるとおり、分かりにくいもの程、官の用語であったり、時代錯誤の用語であったりするという傾向があるように思われます。

 筆者は、このような傾向はあまり良いことではなく、特に、官の用語を無意識に使う状態となっていることには、問題がある、と考えています。

 筆者の経験からすると、官の用語を多く用いて税を語る者は、そうでない者に比べて、官の観点から税を捉える傾向が強いと感じます。

 税の世界で生きる者が、一つひとつの用語にも、もう少し関心を向けて税を語るようになれば、我が国においても、少しずつ、税が官に偏らない観点から捉えるようになってくるのではないかと感ずるところです。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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