コラム

第七十五回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、役員に対して支給する賞与が損金不算入とされている日本の法人税法について、その理論的根拠についてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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役員賞与の損金不算入の理論的根拠
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2016/5/13

 我が国の法人税法においては、多くの諸外国とは異なり、役員に対して支給する賞与が損金不算入とされています。

 これに関しては、従来から、なぜ役員賞与を損金不算入としなければならないのか、諸外国と同様に役員賞与も損金算入とすることができないのかというような声が聞かれますが、今後も、役員賞与を損金算入する範囲を広げるべきであるという主張が出てくるものと思われます。

 本コラムにおいては、この役員賞与の損金不算入の理論的根拠はどのようなものかということについて考えてみることとします。

1.解説書の説明

 役員賞与(注)に関しては、法人税法34条1項において、損金不算入とされています。

(注)平成18年度税制改正前は、法人税法34条において「過大な役員報酬等の損金不算入」、同35条において「役員賞与等の損金不算入」の定めが設けられていましたが、同改正により、これらが全面的に改められて、同34条において「役員給与の損金不算入」、同35条において「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」(平成22年度税制改正によって、廃止)の定めが設けられました。この条文見出しの変更からも分かるとおり、平成18年度税制改正により、「役員報酬」「役員賞与」という用語が「役員給与」という用語に一本化されたわけですが、役員に対して支払われるものは、会社法や企業会計などにおいても「報酬」「役員報酬」「賞与」「役員賞与」とされており、法人税法においては、それらの取扱いを定めるわけですから、法人税法においても、役員に対して支払われるものは、本来は、同改正前と同様に「報酬」「役員報酬」「賞与」「役員賞与」とするのが適切であると考えられます。所得税法においては、役員報酬や役員賞与を「給与所得」という所得区分の中の所得と位置付けて課税を行うこととしていますので、役員報酬や役員賞与を「給与」と呼ぶことに合理性があるわけですが、法人税法においては、役員報酬や役員賞与を「損金の額」の別段の定めとしてどのように取り扱うのかということを示すことが必要となるだけですから、役員報酬や役員賞与を「給与」というように一般に用いられている用語と異なる用語に変更しなければならない理由はありません。このため、本コラムにおいては、平成18年度税制改正前の用語法によることとしています。


 「役員給与」を損金不算入とする理由について、『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規)においては、「第3目 役員の給与等」の「沿革」の冒頭で次のように説明しています。

「 従来から、役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠と考えられており、具体的には、法人段階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされる範囲内に制限することとされてきたところである。」(2161の4頁)


<備考>
 『DHCコンメンタール法人税法』の「第3目 役員の給与等」においては、「沿革」の前に「要旨」(2161の3頁)がありますが、この「要旨」には、法人税法34条1項から4項までの取扱いの概要が記載されているだけであり、役員賞与を損金不算入とする理由に関する記載は有りません。


 この「第3目 役員の給与等」の「沿革」の説明によると、「従来から」、「役員給与」は、「支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠」であるため、損金不算入とされてきた、ということになります。

 しかし、『DHCコンメンタール法人税法』の平成18年度税制改正前の役員賞与等の取扱いを示している「旧法第35条 役員賞与等の損金不算入」の「要旨」の冒頭においては、次のように説明されています。

「 法第35条は、使用人の賞与は原則として損金の額に算入され、役員の賞与は損金の額に算入されないことを定めている。
 同じ賞与でありながら所得計算上このような差異があるのは、役員に対する賞与は利益の分配と考えられているからである。利益の分配は、獲得した利益の処分であって、利益獲得のための費用ではない。」(2191・2192頁)


 この「旧法第35条 役員賞与等の損金不算入」の「要旨」の説明によると、「役員に対する賞与」は、「利益の分配と考えられている」ため、損金不算入とされる、ということになります。

 このように、同じ書籍の中でも、役員賞与を損金不算入とする根拠に関する説明は全く異なっているわけですが、何が役員賞与を損金不算入とする根拠となるのでしょうか。

2.財務省の説明

 役員賞与に関する取扱いは、平成18年度税制改正において大きな改正が行われていますが、平成10年度税制改正でも隠ぺい仮装による役員報酬を損金不算入とする等の改正が行われています。これらの改正の改正案の企画立案を行った財務省主税局が役員賞与を損金不算入とする根拠をどのように説明しているか、確認をしてみましょう。

『平成18年度税制改正の解説』(財務省)においては、次のように説明しています。  
 
「わが国税制では、従来から役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠と考えており、具体的には、法人段階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされる範囲内に制限することとされてきました。」(323頁)


 一方、『平成10年 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)においては、隠ぺい仮装による役員報酬を損金不算入とする根拠について、次のように説明しています。

「(隠ぺい仮装による役員報酬は)たとえそれが定時定額に支給されていたしても、一種の利益の処分であると考えられることから、法令上その点を明確にしたものです。」(303頁)


 この『平成10年 改正税法のすべて』における説明は、役員賞与が「利益の処分であると考えられる」ために損金不算入となるという理解を前提とし、隠ぺい仮装による役員報酬が「一種の利益処分」であると考えられることから、損金不算入となることを「明確にした」というものとなっています。

 『平成18年度税制改正の解説』において、「利益の分配」となることを根拠として「役員給与」が損金不算入となると理解されている可能性があるのは、「定期同額給与」について「改定が3月経過日までとされている理由」として述べられている次の部分のみですが、しかし、この部分も、全体の文脈から判断すると、「恣意性を排除すること」が「役員給与」を損金不算入としなければならない根拠であると捉えた上で「事業年度終了の日間近の改訂」を恣意性のある改訂の一つと捉えているものであって、「役員給与」が損金不算入となる根拠を改正案の企画立案者が「利益の払出し」と捉えていたと解することはできない、と考えられます。

「 なお、改定が3月経過日までとされている理由は、次のとおりです。
1. (省略)
2. 事業年度終了の日間近の改定を許容すると、利益の払出しの性格を有する増額改定を認める余地が生じること」(324頁)


 また、平成18年度税制改正においては、「利益連動給与」を損金に算入することとされたことからも、「利益の分配」を損金不算入とするという考え方が採られていないことが分かります。

 平成18年度税制改正の企画立案者は、「従来から」「役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠と考えて(きた)」と述べていますが、実際には、税制においては、上記の『DHCコンメンタール法人税法』の「旧法第35条 役員賞与等の損金不算入」の「要旨」や『平成10年 改正税法のすべて』における説明からもうかがわれるとおり、「従来から」「利益の分配」は損金にならないという考え方に基づき、法人が支払った役員賞与を損金不算入とする、としてきたものと考えられます。

 そもそも、役員に報酬や賞与をどのように支払うのかということは、税制が容喙するべきことではなく、税制においては、役員に支払われた報酬や賞与が法人税の取扱いにおいてどのような理論的根拠によってどのような取扱いとなるのかということを決めることができるだけです。

 この平成18年度税制改正は、納税者は恣意的なことを行って税金を少なくしようとするものであると捉え、予めルールを定めさせて支給させれば恣意性を排除できるという発想で制度の企画立案が行われたもののように見受けられます。現実を見れば、納税者はできるだけ税金を少なくしようとするわけですから、そのような発想が出てくることは、何ら不思議なことではありませんが、それは、税の制度の企画立案を行うに当たって特に留意すべき事項というものに止まり、税の制度の企画立案を行うに当たって必要となる「理論」と言い得るものではありません。

 我が国においては、従来から「安定配当」や「定額配当」などと呼ばれる配当を毎期同じように支払う企業が非常に多いわけですが、法人税においては、予め配当を行う金額を決めていれば利益の配当を損金としてよいなどということは、理論的に有り得ません。換言すれば、法人税においては、利益に連動しない給与を損金にするという理論は有り得ても、利益に連動する給与を損金にするという理論は、本来、有り得ないはずである、ということです。

 税の制度は、国が税金を取るための道具であるかのごとく誤解されることがありますが、本来は、国民が自ら定める納税等のルールであって国民の財産というべきものですから、法人税の制度も、法人税の理論を正しく踏まえて創る必要があります。

3.役員賞与を損金不算入とする理論的根拠をどのように理解するべきか

 上記2において述べたことからも分かるとおり、平成18年度税制改正においては、税の理論が崩れ、納税者の恣意性を排除するという観点から創られた大部な処理マニュアルが生まれたというような状態になってしまっているわけですが、このような中にあっても、理論が無いままに役員賞与を損金不算入として課税の対象とするというわけには行きません。

 このため、役員賞与を損金不算入とする理論的根拠は何かということに答えを出す必要があります。

 それでは、この理論的根拠とはどのようなものになるのでしょうか。

 結論を申し上げると、それは、平成18年度税制改正前のとおり、実質的に「利益の分配」と考えられるものは損金としない、ということになると考えます。

 その理由は、次のとおりです。

(1) 利益の分配を損金としないという考え方が理論的に正しいこと
(2) 役員賞与は、「役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠」という「理論」によって損金不算入とされてきたわけではないこと
(3) 「役員給与の支給の恣意性の排除」は、そもそも税制の問題ではないこと


 平成18年度税制改正により、我が国の役員賞与に関する取扱いは、なお一層、諸外国の取扱いと大きく異なる特異なものとなってしまったわけですが、このような状態は、いつまでも放置して良いものではなく、法人税の理論を正しく踏まえて役員賞与の取扱いを抜本的に見直すことが必要ではないかと感ずるところです。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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