コラム

第七十四回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の、アソシエイト 弁護士である森田多恵子先生に執筆していただきました。森田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、名義株主ではないグローバルな機関投資家等の株主総会出席の要望に対する、発行会社の対応に関して、2015年11月に全国株懇連合会が公表したガイドラインに則してとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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実質株主の議決権行使
西村あさひ法律事務所
アソシエイト 弁護士 森田 多恵子
2016/4/15

1.はじめに

 株主名簿上の株主ではない機関投資家等から株主総会で議決権を(代理)行使したいとの希望を受けた場合に、発行会社としてはどう対応すべきか。この点について実務上の対応が確立されていない中、昨年11月に全国株懇連合会(以下「全株懇」という)から、「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)が公表された。

 ガイドラインでは、名義株主ではないグローバルな機関投資家等の株主総会出席に関し、法的論点の整理とともに、グローバル機関投資家等の株主総会出席の円滑化の要請と株主総会運営の安定化の要請とのバランスを図る観点から、必要となると思われる手続や参考書式例等が示されている。

2.会社法上の整理

 名義株主以外の者の総会出席に関連する現行法制上の主な規律としては、以下のようなものがある。

 (1) 株主としての株主総会への出席(議決権の行使)

 株主総会の議決権行使の基準日時点で株主名簿に記載又は記録されていない者は、会社に対する株主としての対抗要件を具備しておらず(会社法130条、社債、株式等の振替に関する法律152条1項)、株主として株主総会へ出席し議決権を行使することを会社に対して当然に主張できるわけではない。一般に、非株主が決議に加わった場合には、決議取消事由に該当しうると解されている。

 (2) 議決権の代理行使

 もっとも、株主は、代理人によってその議決権を行使することができる(会社法310条1項)。当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を会社に提出しなければならず、また代理権の授与は株主総会ごとになされなければならない(同条1項、2項)。会社は、株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができる(同条5項)。

 (3) 議決権の代理行使に関する定款規定

 上記(2)から、名義株主ではない機関投資家等は、名義株主から議決権行使の委任を受けた代理人として、株主総会で議決権を代理行使することが考えられる。ただ、日本の多くの上場会社は、定款で、代理人資格を名義株主1名に限定している。定款による代理人資格の限定は、株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、合理的な理由による相当程度の制限と言うことができるとして、判例で有効性が認められている(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)。ただし、特段の事情がある場合には、定款規定による制限は及ばない(下記4(3)参照)。

 (4) 議決権の不統一行使制度

 会社法は、株主がその有する議決権を統一しないで行使することができると規定し、特に「株主が他人のために株式を有する者」である場合には、会社はかかる不統一行使を拒否できないとしている(会社法313条1項、3項)。

 議決権の不統一行使がされる場合、代理人として何名まで認められるべきかや、金融商品取引法の臨時報告書制度との関係で、発行会社が議決権行使結果を正確に把握すべき要請等が追加の論点として生じてくる。詳細は、ガイドライン「(関連補足説明)オムニバス口座の場合の実務上の論点等について」を参照頂きたい。

3.ガイドラインの対象

 ガイドラインは、その対象を「グローバル機関投資家等」と呼称している。いわゆる実質株主と言われ、議決権行使の指図権限を正当に有している機関投資家が、ガイドラインの「グローバル機関投資家等」として想定されている。国内・海外いずれの機関投資家も含まれるが、議決権行使の判断等を行わない資金提供者等はこれに含まれない。また、個人株主は(仮に実質株主と呼ばれることがある者であっても)誰に株主権が帰属しているのか自体が論点となることが多く、機関投資家の場合とは論点の所在が異なっているため「グローバル機関投資家等」に含まれない。

4.総会出席が認められる四つのルート

 上記2の諸規律を踏まえ、ガイドラインでは、グローバル機関投資家等が株主総会に出席する方法として、以下の四つのルートが明示されている。

 (1) ルートA

 ルートAは、総会基準日までに1単元以上の株主になっておくことで、現行定款の規定に沿って名義株主の代理人となる方法である。

 (2) ルートB

 ルートBは傍聴である。傍聴の可否等は会社側の合理的裁量に服する。

 株主総会に出席したい理由が、議決権行使や質問等の株主権行使ではなく、株主総会の状況、経営者の振る舞いや姿勢等を把握する点にある場合に活用できる。


 (3) ルートC

 ルートCは、①代理人による議決権の代理行使を認めても株主総会がかく乱され会社の利益が害されるおそれがなく、②議決権の代理行使を認めなければ議決権行使が実質的に阻害されることとなる等、代理人による議決権の代理行使を認めるべき「特段の事情」を発行会社に証明した上で、議決権を代理行使する方法である。代理人資格を名義株主に限定する旨の定款規定が存在する場合であっても、その例外として現行の判例法の解釈から非名義人の総会出席が認められている類型である。

 たとえば、名義株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させる場合や、常任代理人等には「特段の事情」が認められる。

 また、投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」という)10条2項が代理人の員数制限が及ばない旨を規定していることを一つの根拠に、投信法10条の適用を受ける投資信託委託会社が名義人から代理人として議決権行使の委任を受けることは定款上の制約に抵触しないと解されている。投信法の直接の適用はないがこれに準じた構造を有している場合に、「特段の事情」が認められるかは、投信法の趣旨等も踏まえた解釈論となる。

 ガイドラインでは、特段の事情は、グローバル機関投資家等と名義株主(及び常任代理人)の協力の下、発行会社に示されることが想定されている。


 (4) ルートD

 ルートDは、定款変更をする手法である。例として、代理人資格を名義株主に限定する定款の条項に加えて、第2項として、「2 前項の規定にかかわらず、定款第●条に定める取締役会において定める株式取扱規程に従い、信託銀行等の名義で株式を保有し自己名義で保有していない機関投資家は、株主総会に出席してその議決権を代理行使することができる。」という規定を追加することが挙げられている。

 ルートDは、ルートCよりも広くグローバル機関投資家等の総会出席を認めたい場合や、総会出席の要件を明確化し、グローバル機関投資家等の総会出席に関する取扱いの法的安定性を高めたい場合などに利用することが考えられる。

 株主総会に代理出席できる機関投資家の範囲や総会出席に必要な要件・手続等の詳細は、定款の授権を受けた株式取扱規程等において定めておくことが考えられる。全株懇では、現在、株式取扱規程モデルの改定が検討されている。

5.おわりに

 これまで名義株主以外の者からの出席要請を受けた発行会社の対応はまちまちであったが、ガイドラインで現行法上の考え方が整理されたため、発行会社・機関投資家に共通の土台ができたと言えるだろう。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    アソシエイト 弁護士
    森田 多恵子

略歴

2003年
京都大学法学部卒業
2004年
弁護士登録
2010年
ペンシルバニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2011年
ニューヨーク州弁護士登録
2011年-2013年
三菱商事法務部出向

主な著書・論文

2016年2月
「裁判例に見る企業集団における内部統制」(商事法務2092号)
2015年12月
「『グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン』の解説」
(商事法務2088号、共著)
2014年11月
「エンプティ・ボーティング」(証券アナリストジャーナル11月号、共著)
2011年、2012年
「金商法大系Ⅰ-公開買付け(1)(2)」(商事法務、共著)等

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