コラム

第七十二回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させてい ただきます。今回のコラムにおいては、法人税法159条等の「偽りその他不正の行為」の解釈についてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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脱税の要件である「偽りその他不正の行為」とは
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2016/2/15

 罰則について定めた法人税法159条等においては、「偽りその他不正の行為」を行った場合、10年以下の懲役又は1千万円以下の罰金を科すものとされています。これらの規定の適用を受けたときは、「脱税」ということになるわけですが、脱税犯は刑法犯であり、納税者にとっては、脱税犯とされるのか否かということは重大な関心事ということになります。

 本コラムにおいては、この法人税法159条等の「偽りその他不正の行為」の解釈について考えてみることとします。

1.法人税法159条1項の規定の確認

 法人税法159条1項を例に取り、規定を確認してみましょう。

第159条 偽りその他不正の行為により、第74条第1項第2号(中略)に規定する法人税の額(中略)につき法人税を免れ、又は第80条第6項(中略)の規定による法人税の還付を受けた場合には、法人の代表者(中略)、代理人、使用人その他の従業者(中略)でその違反行為をした者は、10年以下の懲役若しくは1万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


 この法人税法159条1項においては、上記のとおり、「偽りその他不正の行為」を行ったのか否かが適用の要件とされています。

2.「偽りその他不正の行為」の使用例

 「偽りその他不正の行為」という文言は、非常に多くの法令で用いられており、現在、180にも及ぶ規定において用いられています。これらの規定は、罰則だけでなく、不正利得の徴収、欠格事由、契約解除など、さまざまな内容を定めています。税法においても、罰則の規定だけでなく、更正期限の延長などの規定(通法70他)にも用いられています。

 要するに、「偽りその他不正の行為」を行なえば刑事罰を受ける、というように限定的に捉えることはできないわけです。

3.租税回避否認の規定との比較

 租税回避否認規定である132条等においては、「行為又は計算」と規定されていますが、159条1項等においては、「行為」だけが規定されており、「計算」は規定されていません。「不正の計算」のみによって法人税を免れても、159条1項の適用はないわけです。

 159条1項においては、「法人税を免れ(る)」場合に同項を適用するものとされていますが、この「免れる」とは、「身に受けては好ましくないことから逃れる。また、避けてそれにかかわらない。」(大辞泉)という意味を持つ一般用語であり、特別な意味を持つ法令用語ではありませんので、「法人税を免れ(る)」とは、法人税が課されないようにするという以上の意味があるとは解されません。

 また、159条1項等は、132条等のように「結果」が「不当」であるのか否かが適用の要件とされているわけではありません。

 このような点からすると、文言上、159条1項の適用範囲は、132条等の適用範囲よりも広い、ということになります。

 しかし、132条等においては「不当」という用語が用いられているのに対して、159条1項においては、「行為」に関して「偽り」と「不正」という用語が用いられており、この点では、132条等よりも適用範囲が狭くなります。

 この「偽り」とは、「詐偽」と同義で「他人をだまして錯誤に陥れる行為」を意味し、また、「不正」とは、「違法行為」を意味します。159条1項においては、これらを行った者を「その違反行為をした者」としていることからも分かるとおり、「偽り」「不正の行為」は「違反行為」と言い換えても良いものです。

 「不当」とは、違法ではないが法令の規定の趣旨からして適当でないというものを指し、132条等は、所得の金額や税額の計算の規定に違反してはいないが、それらの規定の趣旨に照らして適当でないという結果になっているものに適用することとされているわけですが、159条1項は、それらの規定(注)に違反していることが適用の要件となっているわけです。

(注) 159条1項の規定においては、132条等の適用を受けたものを除外しているわけではありませんので、文言上は、132条等の適用を受けたものも、159条1項の適用対象となり得る状態となっています。


 もっとも、現実には、所得の金額の計算や税額の計算の規定に違反して課税を受けるケースは、132条等によって課税を受けるケースよりもはるかに多いわけですから、「結果」が「不当」であるというものよりも「違反行為」の方がはるかに多い、ということになります。

4.重加算税の規定との比較

 重加算税について定める国税通則法68条においては、「事実」の全部又は一部の「隠ぺい」又は「仮装」を行った場合には、重加算税を課することとされています。

 この国税通則法68条においては、「行為」ではなく、「行為」も含まれる「事実」に関して規定しているため、この点では、同条の適用範囲は、159条1項の適用範囲よりも広いということになります。

 しかし、国税通則法68条は、「隠ぺい」又は「仮装」をした場合にのみ適用することとされているため、この点では、同条の適用範囲は、159条1項の適用範囲よりもかなり狭いということになります。「隠ぺい」とは隠すことをいい、「仮装」とは真実でないものを真実らしく装うことをいいますが、159条1項の「違反行為」は、「隠ぺい」又は「仮装」を伴うものに限られるわけではありません。

 一般に、脱税の規定の適用範囲は重加算税の規定の適用範囲よりも狭いと受け取られがちですが、規定の文言上は、「行為」に関する限り、前者の適用範囲が後者の適用範囲よりも明らかに広くなっています。

5.更正期限延長の規定との比較

 更正期限の延長の規定である国税通則法70条4項1号においては、「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ(た)」ものについての更正決定等に関しては更正期限を7年とすることができるとしています。

 この規定の仕方は、罰則の規定である159条1項と全く同じです。

 このため、規定の文言から判断する限り、国税通則法70条4項1号の適用を受ける場合には、159条1項も適用しなければならない、ということになります。

6.159条1項の「偽りその他不正の行為」の解釈

 上記5までを読まれた方は、159条1項の「偽りその他不正の行為」という規定の仕方には適用範囲が広くなり過ぎるという問題があると感じられたのではないでしょうか。

 159条1項は、納税者に刑事罰を科す規定ですから、その適用の要件は他の規定以上に明確かつ妥当なものでなければならないわけですが、上記5までにおいて述べたとおり、同項の「偽りその他不正の行為」は、広く漠然とし過ぎています。

 そもそも、刑事罰を科す規定の適用範囲が行政罰を課す規定の適用範囲よりも広く規定されているなどということは、立法の常識からしても、おかしいと言わざるを得ません。

 本来、「脱税」ということで刑事罰を科すべき典型的なものがどのようなものかということを考えてみると、売上除外ということに異論はないものと思われますが、売上除外は、「偽り」という用語ではなく、「隠ぺい」という用語で捉えるべきものと考えられます。「偽り」と共に挙げられている「違反行為」に関しても、単なる「違反行為」に刑事罰を科すことができるという規定の仕方は、そもそも適切ではない、と考えます。罰則の規定と重加算税の規定は、正反対の規定振りであっても何らおかしくはなく、立法の常識からすると、むしろその方が妥当であると言っても決して過言ではないように思われます。

 しかし、現状においては、159条1項の規定は上記1において確認したとおりとなっているわけです。

このため、そのような中にあって、この159条1項の「偽りその他不正の行為」をどのように解釈するべきか、ということを考えなければなりません。

 この点に関しては、「偽りその他不正の行為」の解釈に当たり、法人税の負担を減少させるという犯意(故意)の存在が必要であるということを明確にすることで対応すべきものと考えます。

 現状では、159条1項の文言が広く漠然とし過ぎたものとなっていること自体を変えることはできないわけですから、文言以外の部分で解釈の妥当性を担保する他ないわけです。

 現実の訴訟の場では、犯意(故意)の立証が軽視される傾向があるように見受けられますが、罰則の規定である159条等の解釈に当たっては、上記のとおり、違法行為によって法人税の負担を減少させる等の犯意(故意)の立証の必要性を明確にすることを忘れてはならないと考えます。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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