コラム

第七十一回目の専門家コラムは、弁護士法人 森・濱田松本法律事務所のパートナーであり、弁護士である小島義博先生に執筆していただきました。小島先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、合弁会社による株式有利発行に伴う受贈益課税につきまして、裁判例を踏まえて取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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合弁会社による株式有利発行に伴う合弁株主である引受人への受贈益課税 -近時の裁判例の影響を踏まえて-
弁護士法人 森・濱田松本法律事務所
パートナー弁護士 小島 義博
2015/12/15

1.はじめに‐重要な二つの裁判例

 日本企業が海外に子会社を設立する場合に、現地の外資規制の関係などで現地資本を合弁株主として参画させた場合、その後、運転資本が必要になったり、場合によっては外資規制が撤廃された等の理由で、日本企業のみが当該合弁会社に対して増資を行うことは珍しくありません。その際に、日本企業のみが増資を行うということもあり、出資価額は設立時点での価額(簿価)と同額という事例も散見されます。

 このような海外合弁会社に対する簿価での増資に関し、最高裁は、平成24年5月8日、日本企業(X社)がタイ合弁子会社(Y2社)から株式の有利発行を受けたとして受贈益課税を行った更正処分は適法であると判断した東京高裁平成22年12月15日判決(税務訴訟資料260号順号11571)を維持しました(当該事案の概要は下記のとおりです。なお、資本関係等の事実関係を一部簡略化しています。)。かかる最高裁の決定を契機に、近時、我が国の課税当局が海外合弁会社に簿価での増資をした日本企業に対して受贈益課税を行う事案が相次いでいるようです。



 また、平成27年9月29日には、タイ合弁会社(B社)株式の新株発行を受けた日本の商社(A社)に対する受贈益課税が争われた別の事案において、東京地裁は、更正処分が適法であるとの判決(判例集未登載)を出しました。事案の概要は下記のとおりです(一部事案を簡略化しています。)。なお、B社のA社以外の株主が有する株式は、これらの株主とA社の間の株主間契約に基づき、一定の場合にA社が取得価額により買い取ることが保証されており、B社の業績に関係なくA社から一定の支払いを受けるものとされ、その代わり配当受領権が放棄されていた上、A社の意向に反した第三者への譲渡が制限されていました。

2.争点及び裁判所の判断からの帰結

 法人税法上、新株の有利発行がなされた場合の課税関係について、発行法人において新株発行は資本等取引(法人税法22条5項)に該当し、その所得に影響はありません。また、既存株主において、新株発行は発行法人と引受法人との間の取引であり、既存株主は取引当事者ではないことから、既存株主が課税されることは原則としてありません。他方で、引受法人においては、払込価額と時価の差額が概ね時価の10%以上であれば有利発行とされ、この場合には、時価と払込価額の差額につき、受贈益課税を受けると考えられています。

 新株発行が有利発行に該当するかという争点は別として、東京高裁平成22年12月15日判決(以下「H22東京高判」といいます。)及び東京地裁平成27年9月29日判決(以下「H27東京地判」といいます。)からの帰結として、以下の三点に留意する必要があります。

 まず、H22東京高判は、法人税法22条2項は「取引…に係る収益の額」が益金を構成すると定めているところ、新株発行の場面では引受人と発行会社との間に(株式発行の)「取引」があるとしつつも、「取引に係る収益」という文言が「取引に関係した基因から生ずる収益」を意味すると解釈し、引受人が有利発行により経済的利益を得ていれば、取引の相手方ではない既存株主から引受人に価値が移転した場合であっても、当該経済的利益は引受人の収益として益金を構成すると判示しています。

 この点、有利発行の場面の経済的価値について、発行会社から移転したのか(発行会社説)、他の既存株主から移転したのか(既存株主説)という理論的な論点があり、H22東京高判を含め通説は既存株主説を採用していると考えられるところ、H22東京高判によれば通説である既存株主説であっても法人税法22条2項に基づく課税が可能ということが確認されました。

 次に、H22東京高判においては、X社は、有利発行に際して既存株式に希薄化損失が生じる(X社が直接保有するY2社株式に希薄化損失が生じるとともに、Y1社保有のY2社株式にも希薄化損失が生じることによりX社保有のY1社株式の価値が下落する)ところ、その額を控除すべきであると主張しました。しかし、H22東京高判は、実現主義に照らして含み益の減少は課税上考慮できないという理由によりかかる主張を排斥した原審の判断を維持しました。

 よって、引受人が増資前から保有していた合弁会社の株式についての希薄化損失の主張はH22東京高判を前提とすれば認められないことになります。

 さらに、H27東京地判における以下の判断にも留意する必要があります。

 有価証券の有利発行が行われた場合の当該有価証券の取得価額について定める法人税法施行令119条1項4号かっこ書きは、当該有価証券が「法人の株主等が当該株主等として金銭その他の資産の払込み等又は株式等無償交付により取得をした当該法人の株式又は新株予約権(当該法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合における当該株式又は新株予約権に限る。)」に該当する場合には同号が適用されないことを定めています(このことから、典型的には株主割当てによる株式の発行が行われ、全株主がその保有する株式数に従い株式を引受けた場合など、同号かっこ書きに該当する場合には、有利発行に該当せず、受贈益課税は発生しないことになります。)。

 なお、「他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」とは、「株主等である法人が有する株式の内容及び数に応じて株式又は新株予約権が平等に与えられ、かつ、その株主等とその内容の異なる株式を有する株主等との間においても経済的な衡平が維持される場合」をいうと定める法人税基本通達2-3-8が存在します。

 この点、H27東京地判は、法人税基本通達2-3-8にいう「内容の異なる株式」とは種類株式のことを指すと判示し、上記「I. はじめに」で記載したような株主間契約上の定めがあったとしても、「株主間契約による差異は、株式の内容とは直接関係しない株主同士の個別契約によるものであって、それにより生じる差異は事実上のものであり、かつ流動的なものにすぎないのであるから、これらの事情があることをもって、原告以外の株主の株式が原告の株式と内容の異なる株式にあたるということはできない」と判示しました。

 また、H27東京地判は、本件において、引受人であるA社は、A社以外の株主の利益が株主間契約によって保護されており、増資によっても当該保護された利益を失うことはないから、A社以外の株主に損害を及ぼすおそれがないという趣旨の主張をしたと整理した上、「本件増資によって原告が得る株主としての権利は増資前に比して格段に大きなものになるという利益を得るのに対し、原告以外の株主はかかる利益を何ら得るところがない」ことを理由に、「他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」に該当しないことは明らかであると判示しています。

 よって、H27東京地判からは、取得価額による買取条項などの株主間契約における合意があったとしても、かかる債権的な合意のみでは、法人税基本通達2-3-8にいう「内容の異なる株式」と評価することはできず、また、取得価額により買取される株式であったとしても、有利発行により、当該株式を保有する「他の株主等に損害をおよぼすおそれ」があるということになります。

3.実務上のポイント

 上記で紹介した二件の裁判例は、海外合弁会社株式の発行の簿価での引受人である日本企業に対し、有利発行に該当するとして受贈益課税が認められた事例です。海外合弁会社から株式の発行を受ける場合、事業上又は現地法制上の理由から、株式の時価とは異なる価額を新株の発行価額とせざるを得ない状況もあると考えられます。

 しかし、上記の裁判例からすると、海外合弁会社から株式の発行を受ける場合、税務・法律の専門家の関与のもとでの慎重な検討が必要になっています。

 また、株式有利発行に伴う引受人への受贈益課税の問題については、株主・法人間取引について、法人税法が十分な規定を設けていないことから、上記訴訟で争われていない重要な法的な論点も存在していますので、今後の実務の展開を注視することが必要であると思われます。

執筆者紹介

  • 弁護士法人 森・濱田松本法律事務所
    パートナー弁護士
    小島 義博

略歴

2000年
東京大学法学部卒業
2006年
コロンビア大学ロースクール卒業
2006年-2007年
Simpson Thacher & Bartlett LLP ニューヨークオフィスにて執務

主な著書

2015年10月
『税務・法務を統合したM&A戦略 第2版』中央経済社(共著)
2015年8-9月
『タックス・ヘイブン対策税制を巡る最新裁判例詳解〈1〉〈2〉』
月刊国際税務(2015年8月号・9月号)(共著)
2015年8月
『期間短縮・わかりやすさで選ぶキャッシュ・アウトの手法』
ビジネス法務Vol.15 No.8(2015年8月号)
2015年2月
『税理士のための契約書チェック講座 事業譲渡契約』
税務弘報Vol.63 No.2(2015年2月号)(共著)
2014年11月
『外国公務員贈賄規制と実務対応―海外進出企業のためのグローバル
コンプライアンス』商事法務(共著)
2014年10月
『取引スキーム別 契約書作成に役立つ税務知識Q&A』中央経済社(共著)
2013年12月
『平成25年金商法改正によるインサイダー取引規制がM&A実務に与える影響』
旬刊商事法務(No.2019)(共著)
2013年9月
『アジア新興国のM&A法制』商事法務(共著)
2012年4月
『Japan - Tax transparency of a foreign entity in Japan』
International Mergers & Acquisitions Review 2012(共著)

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