コラム

第七十回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、投資事業有限責任組合契約(LPS)の「法人」該当性等に関して、最高裁でなされた2つの異なる判断について所感をお述べいただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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LPSの「法人」該当性等に関する最高裁判決に関する疑問
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2015/11/15

 本年(平成27年)7月17日に、LPS(投資事業有限責任組合契約)の法人該当性等に関して争われた海外不動産投資事業事件について、最高裁(第二小法廷)において、米国のデラウエア州のLPSに関しては「法人」に該当するとして投資家における損失の計上を否認する判決が出され、また、バミューダのLPSに関しては「法人」に該当しないとして投資家における損失の計上を容認する高裁判決に対する国側の上告受理申立を不受理とする決定がなされました。

 LPSという点では同じものでありながら、最高裁においては、同日に正反対の判断がなされたわけです。

 本コラムにおいては、この最高裁の判断に関して所感を述べることとします。

1.LPSに関する最高裁の判断の概要

 米国のデラウエア州のLPSの法人該当性等が争われた事件に対する最高裁判決の要点となる部分を抜粋してみると、次のとおりです。

  「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の観点として、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。」
※ 下線は、著者が付したものです。


 この事件は、平成25年1月24日に、名古屋高裁において納税者勝訴の判決が出されていたものです。この名古屋高裁判決においては、準拠法である外国の法令によって法人格を付与することとされているのか否かということに、損益の帰属すべき主体となっているのか否かということを加えて、「法人」に該当するのか否かを判定すべきであるという観点に立って、LPSを「法人」ではないと判定し、LPSに投資をした投資家がLPSによる事業の損失を計上することを認めました。

 この事件の最高裁判決に先立って、米国のデラウエア州のLPSの法人該当性等について争われていた事件においては、平成25年3月13日と同年4月25日に、それぞれ東京高裁と大阪高裁において、準拠法である外国の法令によって法人格を付与されているのか否かを実質的に判定して「法人」であるのか否かを判定するべきであるという観点に立って、LPSを「法人」であると判定し、納税者逆転敗訴の判決が出されていました(注)。

(注) これらの事件に関しては、納税者から上告受理申立てがなされていましたが、米国のデラウエア州のLPSに関する上記の判決日と同じ本年7月17日に、上告不受理の決定がなされ、当該事件は、納税者敗訴で確定しました。


 このため、当該事件の最高裁判決は、大方の予想どおりと言っても良いものではあったわけです。

 しかし、バミューダのLPSの法人該当性が争われていた事件に関しては、平成26年2月5日に、東京高裁において、上記の名古屋高裁と同様の観点に立って、LPSを「法人」ではないと判定し、納税者勝訴の判決が出されていましたが、これに対する国の上告受理申立てについては、米国のデラウエア州のLPSに関する上記の判決日と同じ本年7月17日に、上告不受理の決定がなされ、当該事件は、納税者勝訴で確定しました。

 以上のとおり、本年7月17日の最高裁判決は、米国のデラウエア州のLPSに関しては「法人」と判定し、他方、バミューダのLPSに関しては「法人」ではないと判定するというものとなっています。

2.最高裁判決の疑問点

 上記の最高裁判決に関しては、次のような疑問点等があります。


(1)バミューダのLPSを「法人」ではないとした理由が不明

 上記1において述べたとおり、最高裁は、米国のデラウエア州のLPSに関して、上記1において引用した判決文に記載されている判定の基準によってLPSが「法人」と判定したことを確認することができますが、バミューダのLPSに関しては、同じ判定の基準によって「法人」ではないと判定したのか否かが不明です。

 バミューダのLPSに関しては、東京高裁が上記の最高裁の判定の基準とは異なる基準によって「法人」ではないという判定をしているわけであり、その高裁判決を不服として国が上告受理申立てを行ったものに対して、最高裁は不受理としたわけですから、常識的に判断すると、バミューダのLPSに関しては東京高裁の判定の基準を適用するべきであるということになるはずです。これは、米国のデラウエア州のLPSに関する判決が無かった場合を想定してみると、明らかです。

 最高裁がバミューダのLPSに関してどのような判断をしたのかということが分からないという状態になっていることには多分に疑問がある、と言わざるを得ません。

 LPSは米国のデラウエア州とバミューダにだけしか存在しないということではありませんので、米国のデラウエア州のLPSは「法人」とされてバミューダのLPSは「法人」とはされないという結果だけが分かれば済むというわけではありません。

 もっとも、実際には、最高裁は、バミューダのLPSに関しても、米国のデラウエア州のLPSの法人該当性の判定基準と同じ基準で判定すると「法人」とはならないという判断をした可能性が高いように思われます。 このため、今後、国税当局も、米国のデラウエア州のLPSに関して最高裁が示した判定基準をLPSの法人該当性の一般的な判定基準とすることになるのではないかと思われます。


(2)課税標準がどうなるのかということが不明

 上記の最高裁判決においては、LPSが「法人」であるのか否かという納税義務者に関する言及は多く見受けられますが、「所得の金額」がどうなるのかという課税標準に関する言及は見受けられません。

 LPSが「法人」であるのか否かということとLPSへの投資家の「所得の金額」がどうなるのかということは、全く別の問題です。

 以下、(2)においては、LPSへの投資家が「内国法人」であると仮定して説明を行うこととします(注)。

(注) LPSへの投資家が「個人」であったとしても、根拠法令が異なるだけで、以下で指摘する疑問点と同じ疑問点が存在します。


 LPSが「法人」であるのか否かということは、法人税法2条4号の「外国法人」の定義である「内国法人以外の法人をいう」という定めの中の「法人」にLPSが該当するのか否かという問題です。

 これに対して、LPSへの投資家である「内国法人」の課税標準の計算は、法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)等の規定によって行われることとなりますが、これらの規定には、「益金の額」と「損金の額」に関する取扱いが定められており、LPSへの投資家である「内国法人」の課税標準の計算をどのように行うべきかという問題は、法人税法22条等の解釈と適用の問題であって、2条4号の解釈の問題ではありません。

 LPSが「法人」であろうが「法人」でなかろうが、LPSへの投資家である「内国法人」がLPSによる事業の利益と損失に相当する金額を受け取ったり支払ったりするという契約を結んで実際にそのような受取りや支払いがあるということであれば、それらを「益金の額」や「損金の額」として課税標準である「所得の金額」を計算することとなるはずです。

 現に、匿名組合への投資家である組合員の「所得の金額」の計算は、法人税法22条の規定に基づき、そのように行っているわけです。

 最高裁の判決においては、LPSへの投資家の課税標準の問題をLPSの法人該当性の問題に置き換えてしまい、LPSへの投資家の課税標準の問題が適切に検討されていない、という問題があるように思われます。


(3)外国子会社合算税制や外国税額控除制度の適用に関する疑問

 最高裁の判決自体に対する疑問点ということではありませんが、最高裁の判決のようにLPSを「法人」と捉えるということになると、LPSへの投資家に外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)や外国税額控除制度をどのように適用するのかという問題が生じてきます。

 この点に関しては、基本的には、「法人」と捉えられているLLCの場合と同様の取扱いとするべきものと考えます。


(4)更正期限前に開始したLPSに係る減額更正の必要性

 投資家が米国のデラウエア州のLPSに投資を行ってその事業の損失と利益を計上していても、それらの計上の否認が行われなかったものが存在すると聞くところですが、最高裁の判決によると、米国のデラウエア州のLPSに投資した投資家でLPSの事業の損失と利益を計上していた者は、それらの計上を否認する更正が行われることとなるわけですから、更正期限(通常は5年)の前にそれらの計上を行っていた場合には、更正期限の前に計上していた損失の額に相当する金額が課税対象外となり、更正期限の後に計上していた利益の額に相当する金額の減額更正のみが行われるというケースも生ずるはずです。

 実務においては、損失の額の否認のみではなく、このようなケースにおける利益の額の認容も適切に行ってもらうべきです。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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