コラム

第六十八回目の専門家コラムは、一般社団法人日本経済団体連合会の小畑良晴先生に執筆していただきました。小畑先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、今後、日本で拡大すると考えられる株式報酬について、この仕組みが導入される際に必要となる税制上の整合的な取り扱いについて取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
電子メール:info@amidaspartners.com ※全角「@」を、半角「@」に置き換えて、送信してください。

株式を用いた役員報酬制度の税制上の課題
一般社団法人日本経済団体連合会
経済基盤本部長 小畑良晴
2015/9/15

 コーポレート・ガバナンス改革の一環として、日本再興戦略改定2015や、コーポレートガバナンス・コードにおいても、経営陣の「攻めの経営」を後押しするため、業績連動報酬や株式報酬による企業価値向上のためのインセンティブ付与の重要性が盛り込まれている。

 さらに、経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」(座長:神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授)が7月24日に公表した「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」では、「我が国においては、中長期に連動する報酬を含むインセンティブ報酬が十分に活用されていない状況にある」と指摘し、この活用に向けて、新しい株式報酬の導入を提唱している。これまでわが国で一般的であったストック・オプション(あらかじめ定めた行使価格で株式を取得することができる権利)ではなく、欧米において中長期のインセンティブ報酬として普及している、Performance Share(中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式報酬)やRestricted Stock(一定期間の譲渡制限が付された株式報酬)と同様の仕組みを我が国で導入するための手続(金銭報酬債権を現物出資する方法)を整理している。

 こうしたことから、8月末に公表された「平成28年度税制改正に係る経済産業省要望」では、「我が国企業の「稼ぐ力」向上に向け、企業経営者に「攻めの経営」を促すため、コーポレートガバナンスが強化されている上場企業等を対象に、役員給与における多様な業績連動報酬や株式報酬の導入促進等を図る」とされている。

株式報酬の類型

 前述のPerformance ShareやRestricted Stockのように、現物株式を交付し、その株式の価値そのものが報酬となるもの(フル・バリュー型)が株式報酬の典型であるが、これまでわが国では、このような報酬の支給に関する会社法上あるいは税法上の取り扱いが必ずしも十分に整理されていなかったことから普及していない状況にある。ただし、今回の経済産業省の研究会の報告では、会社法上の論点については一定の整理がなされている。

 こうしたことから、従来、わが国では、現物株式ではなく、ストック・オプションが用いられてきた。ストック・オプションは新株予約権を付与するものであり、オプションの行使価額と取得した株式の譲渡価額との差額が実際の利得となる(上昇益還元型)。現物株式の支給と比べると、株価が行使価格を下回っている場合にはオプションを行使しないことにより、株価のダウンサイド・リスクがない点が特徴である。ただし、いわゆる1円ストック・オプション(権利行使価格を1円等の極めて低廉な価格とするストック・オプション)となると事実上、現物株式を支給したのと類似したものとなる。

 さらに、最近では、株式給付信託(会社が役員報酬として承認された金額を上限として金銭を拠出し信託を設定し、当該信託がその会社の株式を取得し、役員は条件成就時に当該信託からその株式を受け取る仕組み)の利用により、現物株式を支給する方法も見られる。

 1円ストック・オプションや株式給付信託が、Performance ShareやRestricted Stockのわが国の法制上の課題を乗り越えるために考案されてきたものだとすれば、今後、金銭報酬債権の現物出資の形で、Performance ShareやRestricted Stockが実際に行われる場合には、経済的にはほぼ同じ効果を求めるこれらの報酬については、税制上、整合的な取り扱いを整備することが必要であろう。

役員側の課税関係

 株式報酬を受けた役員側の課税関係は、課税のタイミング、所得の価額、所得の種類について明確にする必要がある。

 ストック・オプションの場合には、権利付与時、権利行使可能時、権利行使時、株式譲渡時、それぞれについて検討する必要がある。まず、税制適格ストック・オプションについては、現行制度では、権利付与時から権利行使時までいずれも非課税、権利行使によって取得した株式を譲渡した時点で、行使価額と譲渡価額との差額が譲渡所得として課税となる。一方、1円ストック・オプションなどの非適格ストック・オプションの場合には、権利付与時および権利行使可能時は非課税だが、権利行使時において、行使価額とそのときの株式の時価との差額が給与所得として課税となる。さらにその株式を譲渡した場合には、行使時の時価と譲渡価額との差額が譲渡所得として課税される。

 株式給付信託の場合も、非適格ストック・オプションと同様、信託から株式が交付された時に、株式の時価をもって給与所得として課税されるものと考えられる。

 では、金銭報酬債権を付与した上で現物出資する場合、どうか。例えば、3年間の業績に応じて株式報酬を与える場合、初年度に、業績と付与株式数を連動させる算式を定め、それに対応する不確定額の金銭報酬債権を付与し、3年目終了時に具体的な金額が、その時点の株価によって定まり、その確定した金銭報酬債権の現物出資を行い、株式が交付されるという方式をとった場合、役員への課税のタイミングは、金額が確定する3年目終了時になるのであろうか。一方、初年度に確定額の金銭報酬債権を付与すると同時に、現物出資を行い、(3年後の業績によって制限が解除される)譲渡制限株式を付与する場合には、金銭報酬債権の金額は当初に確定していることから、その時点で課税を行うのであろうか。あるいは、譲渡制限が解除されて初めて権利が確定したと考えて、権利確定時に課税し、その所得金額は、権利確定時の株式の時価によって算定することになるのであろうか。

 役員報酬の設計は、本来、それぞれの会社の状況に応じて設計されるべきものであり、その取り組みを阻害しないよう、税制上の取り扱いは極力バイアスの生じないものとすべきである。この観点からすれば、金銭報酬債権付与時には課税をせず、条件成就時すなわち権利確定時に、給与所得として課税をするのが適切ではなかろうか。逆に非適格ストック・オプションについては、権利行使可能時に課税をするのが、株式報酬との関係では整合的とも言えるのかもしれない。

法人側の取り扱い

 一方、報酬を与える法人側の課税関係は、その支給した報酬が損金算入されるかどうかという点が問題となる。

 ストック・オプションの場合には、一般的な役員報酬の規定とは別の規定が設けられており、給与等課税事由が生じた日において、役員から役務の提供を受けたものとして、権利付与時のオプションの価額を損金算入することとされている。適格ストック・オプションの場合には、給与所得課税は生じないので、損金算入はない。一方、非適格の場合には、権利行使時に、損金算入することとなる。

 株式報酬についても、これと同様の規定を別途設け、取り扱いを明確化する必要がある。その上で、損金算入すべき金額は、権利付与時の株式の時価なのか、権利確定時の株式の時価なのかが論点となろう。

執筆者紹介

  • 一般社団法人日本経済団体連合会
    経済基盤本部長
    小畑良晴(おばた・よしはる)

略歴

1965年生まれ。1990年東京大学法学部卒業。同年(社)経済団体連合会(現 日本経済団体連合会)事務局入局。2006年経済法制グループ長 兼 税制・会計グループ副長、2009年経済基盤本部主幹。2015年より現職。

主な著書

『新しい合併・分割・現物出資の税務』(新日本法規出版)
『Q&A連結納税制度の実務解説』(新日本法規出版)
『会社法対応 企業組織再編の実務』(新日本法規出版)
等(いずれも共著)。

最新コラム

アミダスパートナーズについて
お問い合わせ