コラム

第六十七回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、平成23年度税制改正後における「当初申告要件」と「損金経理要件」の解釈について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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「当初損金経理要件」は存在しない
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2015/8/6
法人税法においては、「当初申告要件」と呼ばれるものがいくつか存在しています。平成23年度税制改正において税額控除などにおける当初申告要件が廃止されたわけですが、全てが廃止されたわけではなく、法人税法42条(国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)などには、現在も当初申告要件が残されており、同条3項の例を挙げると、次のとおりです。

「前2項の規定は、確定申告書にこれらの規定に規定する減額し又は経理した金額に相当する金額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。」


 一方、法人税法には、「損金経理要件」と呼ばれるものも存在しています。法人税法42条1項においても、「損金経理」が要件とされています。この「損金経理」とは、法人税法2条25号(損金経理の定義)において次のように定義されています。

  「損金経理 法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。」


 上記の国庫補助金等に係る圧縮記帳の例からも分かるとおり、当初申告要件と損金経理要件は、一つの制度の中に二つが併存することもあります。

 特に、このように一つの制度の中に当初申告要件と損金経理要件の二つが存在する場合には、二つの違いを正しく理解しておく必要があります。

1.「当初申告要件」

 「当初申告要件」とは、上記の法人税法42条3項のように、「確定申告書」(租税特別措置法上の「当初申告要件」には、「中間申告書」が含まれます。)に明細の記載を求めるものです。

 この「確定申告書」とは、法人税法2条31号において、次のように定義されています。

  「確定申告書 第74条第1項(確定申告)(第145条第1項において準用する場合を含む。)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)をいう。」


 この定義中の法人税法74条1項は、次のとおりです。

  「内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
  一~六 省略」


 これらの規定からすると、「確定申告書」は、期限内の申告書だけでなく、「期限後申告書」を含むことになります。

 また、法人税法2条36号には、次のとおり、「修正申告書」の定義が設けられています。

  「修正申告書 国税通則法第19条第3項(修正申告書)に規定する修正申告書をいう。」


 この定義からすると、「確定申告書」は法人が最初に税務署長に提出する申告書のみを指し、「修正申告書」を含まないことになります。

 このような「確定申告書」の捉え方に疑義はないものと思われます。

 もっとも、「各事業年度終了の日の翌日から2月以内」に複数の申告書を提出した場合にもその最初の申告書のみが「確定申告書」となるのか否か、「確定した決算」に基づかない申告書が「確定申告書」となるのか否かというような疑問は残ることになります。

2.「損金経理要件」

 「損金経理要件」とは、法人税法2条25号に定義された「損金経理」を求める要件です。

 法人税法2条25号には、「確定した」という用語が用いられていますが、「確定」とは「はっきりと決まること」をいいます。このため、「確定した」とは、「はっきりと決まった」という意味になります(吉国一郎他『法令用語辞典』(学陽書房))。

 また「決算」とは、次のように説明されています(同前)。

  「「決算」は、一般的には、一定の期間における収入支出、損益等の総実績を明らかにして、予算と対比することをいうのであるが、例えば、国又は地方公共団体の決算というときは、毎会計年度における歳入歳出について当該年度の出納完結後においてその予算と実績とを対比して考査し、その結果作成された決定的計数表を意味する。前者は、言わば、行為たる決算であり、後者は形式たる決算といえよう。また、例えば、株式会社については、毎事業年度の終了後、その年度の収支、損益等の総実績を明らかにするため貸借対照表及び損益計算書を作成し、株主総会の承認を求めるが、これを「決算の確定」と称することがある(法人税法74I等)。」


 この説明にあるとおり、「決算」とは、「行為」を指す場合と「形式」(「行為」たる「決算」の結果として作成された「決定的計数表」など)を指す場合とがあります。

 法人税法2条25号の「決算」が「行為」と「形式」のいずれを指すのかということを考えてみると、「確定した決算」という表現がされていることからすれば、「行為」ではなく「形式」を指すものと解するのが自然です。事業年度終了後に行われる「行為」としての「決算」には、「確定した」という用語を用いて「確定した決算」という表現をする意義はありません。上記の「決算の確定」の説明にもあるとおり、「確定した決算」という表現は、株主総会の承認を得たものということを示すために用いられているものと解されます。そうであるとすれば、「確定した決算」とは、上記の説明の用語を用いれば、「確定した」「貸借対照表及び損益計算書」ということになります。

 ところが、法人税法2条25号の「費用又は損失として経理すること」という部分から考えてみると、「決算」とは、「形式」ではなく、「行為」と解するのが自然です。「経理する」という行為は、「行為」の中でしか行い得ないからです。

<参考1>
 法人税法2条25号においては、「費用」と「損失」だけを定めていますが、本来は、「原価」も定める必要があり、「原価の額、費用の額又は損失の額」とするのが適当であったものと考えられます。
 また、「経理する」という用語は本来は「計上する」という用語を用いるか又はそれらの用語を用いることなく「原価の額、費用の額又は損失の額とすること」とするのが適当であったものと考えられます。


 このような点からすると、法人税法2条25号における「決算」という用語は、「行為」と「形式」のいずれとも断定しにくいあいまいな用い方となっていると言わざるを得ません。

 しかし、この法人税法2条25号における「決算」が「行為」と「形式」のいずれであったとしても、同号の規定から、同号の「決算」が最初に行った「行為」や最初に作成した「形式」だけを指すと解釈することはできません。立法に当たって、法人税法2条25号における「決算」が最初に行った「行為」や最初に作成した「形式」だけでなく、その「行為」を後に修正した「行為」やその「形式」を後に修正した「形式」を含むものにしようとした場合にも、同号の規定を現在のような規定とすることは、十分、有り得ることです。

 また、「損金経理」に関しては、上記1の「当初申告要件」とは異なり、「期限後損金経理」や「修正損金経理」というようなものも存在しません。

 このような事情からすると、「損金経理要件」を「当初損金経理要件」に限定して捉えることは困難と考えられます。

3.まとめ

 平成23年度税制改正前においては、「当初申告要件」と「損金経理要件」が併存することが多かったために、「損金経理要件」は、最初の「損金経理」のみに係る要件であると誤解される傾向があったように思われますが、同改正以後、これらの要件は明確に分けて解釈をすべき状況となっています。

 この「損金経理要件」に関しては、本来は、廃止するのが適当と考えていますが、その制度論は別にして、存置されている以上は、その解釈を正しく行わなければなりません。この「損金経理要件」を正しく解釈をするということになった場合、最も注意を要する点は上記2において述べた点であると考えています。

<参考2>
 「損金経理要件」は、会社法上の決算と法人税法上の申告が別の手続きで行われる場合に有効に機能するものであり、公開会社においては、その予定する効果が期待できることになります。
 しかし、我が国の法人の大多数を占める中小法人においては、決算書の作成と申告書の作成は同時に行われて、同時に役員兼株主において承認されるという状態となっています。中小法人においては、現実には、決算と申告が一体化しているわけです。
 このため、中小法人においては、法人の内部意思を確認したり、財税を一致させて簡素化を図ったりするというような「損金経理要件」の意義として語られる事柄は、実質的には意義がないと言っても過言ではありません。
 中小法人においては、「損金経理要件」は単なる形式要件にしかすぎず、仮に「損金経理」を行っていなかったとしたらそれは単なる処理誤りによる所得の過大申告でしかないはずです。
 「損金経理要件」に関しては、決算と申告が別の手続きで行われる公開会社においては、法令の文言どおりに解釈をして適用するのが適当と考えられますが、決算と申告が一体化している中小法人においては、法令の文言の形式的な解釈によるのではなく、実態に即した柔軟な対応が求められるものと考えます。


 上記2において述べたことと異なる解釈を採った過去の裁決や解説が存在するのも事実ですが、法令の解釈は法令の規定を正確に読んで行うのが基本であり、誤った解釈は正す必要があります。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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