コラム

第六十六回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の髙木弘明先生に執筆していただきました。髙木先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、2015年6月1日から施行された「コーポレートガバナンス・コード」について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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コーポレートガバナンス・コードへの対応の要点
西村あさひ法律事務所
パートナー弁護士 髙木弘明
2015/7/15

1.コードの求める「コーポレートガバナンス」

 本年6月1日から、東京証券取引所(以下「東証」という。)が制定した「コーポレートガバナンス・コード」(以下「コード」という)が施行されている。コードの内容は、金融庁及び東証を共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(座長・池尾和人慶応義塾大学教授)が本年3月5日に策定・公表した「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(以下「コード原案」という)と同一である。3月決算会社では、コードに対応したコーポレート・ガバナンス報告書を本年12月下旬までに提出する必要があり、各社において、その記載ぶりについて具体的な検討が進められている。

 一般に、コーポレートガバナンスという言葉は、会社におけるリスクの回避や不祥事防止(いわゆるコンプライアンス)といった「マイナスを防ぐ」側面が強調される傾向にある。これに対し、コードでは、健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いており、コードにいう「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み・体制を意味している。つまり、コードは、各会社が持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図るために自律的に対応する、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指しているところに大きな特徴がある。

 コードに対応する上では、コードが主に対象として捉えている株主についても理解しておく必要がある。株主について、コード原案序文8項は、「市場においてコーポレートガバナンスの改善を最も強く期待しているのは、通常、ガバナンスの改善が実を結ぶまで待つことができる中長期保有の株主であり、こうした株主は、市場の短期主義化が懸念される昨今においても、会社にとって重要なパートナーとなり得る存在である」と指摘している。言い換えれば、会社がコーポレートガバナンスの改善に取り組み、自律的な対応ができるようになってはじめて、中長期的視点を持つ投資家(patient capitalと呼ばれる。)の投資を受け、中長期的視点からの成長投資等を行っていくことができることとなる。

2.経営理念、経営戦略及び経営計画

 コードには、特定の事項を開示すべきとしている原則が複数定められている(別表1「特定の事項を開示すべきとする原則」参照)。

【別表1】コーポレート・ガバナンス報告書で開示が求められる事項(11項目)
原則1-4 上場株式の政策保有に関する方針等
原則1-7 関連当事者間の取引に関する適切な手続の枠組み
原則3-1 経営理念、経営戦略、経営計画、コーポレートガバナンスに関する基本方針等
補充原則4-1① 経営陣に対する委任の範囲の開示
原則4-8 3分の1以上の独立社外取締役選任が必要と考える場合の取組方針
原則4-9 社外役員の独立性基準
補充原則4-11① 取締役の選任に関する方針・手続、多様性等に関する考え方
補充原則4-11② 役員の他の上場会社役員の兼任状況
補充原則4-11③ 取締役会の実効性に関する分析・評価結果の概要
補充原則4-14② 役員に対するトレーニングの方針
原則5-1 株主との建設的な対話を促進するための体制整備等の方針


 コードを対応する上で、根本となる事項は、原則3-1(i)により開示が求められる経営理念、経営戦略及び経営計画である。中長期的視点を持つ投資家は、足元の業績だけを重視するわけではなく、より長期の企業価値が向上するかどうかに大きな関心を有している。その背景には、グローバル化や経営環境の変化の激しさに伴い、会社が中長期的に直面するビジネスリスクが多様化しており、企業価値の向上に関する不確実性も高まっていることがある。そのようなビジネスリスクに会社がどのように対処していく方針を有しているのか、経営理念、経営戦略及び経営計画で示すことが望まれている。

 経営理念については、よりよい社会を目指すための貢献等を掲げている会社も数多く、比較的開示もしやすいと思われる。また、経営計画は、現在多くの企業が開示している中経営計画をはじめ、イメージはしやすいであろう。しかし、多くの企業で対応が必要なのは、その中間にある経営戦略である。これを開示するためには、自社の強みに加えて克服すべき弱点は何かを把握して示すこと、中長期的に抱える経営課題が何かを示すこと、それに対処し、中長期的企業価値を向上させるためのロードマップを示すことが必要となる。その際、コード原則5-2が、経営戦略や経営戦略について、「収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである」としていることに留意する必要がある。

3.コーポレートガバナンス基本方針

 このように示された経営理念、経営戦略及び経営計画を基にして、これをどのように実現させるのか、その意思決定を行うための仕組み(すなわち、会社のガバナンスの基本構造及びそれを支える基本的な考え方)を示すのが、原則3-1(ii)で開示が求められているコーポレートガバナンス基本方針である。コーポレートガバナンス基本方針を策定し、開示することは、株主その他のステークホルダーが会社のガバナンスの質を評価するための主要な材料を提供することであり、その重要性は高い。

 コーポレートガバナンス基本方針に何を定めるかについては、特に定められていないが、ニューヨーク証券取引所の上場規則(Listed Company Manual 303A.09)が、同証券取引所の上場会社に対して策定・開示を求めているコーポレートガバナンス・ガイドライン(Corporate Governance Guidelines)の内容等を参考とすれば、①会社の企業統治形態(監査役会設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社のいずれであるか)とその形態を選択している理由、②法定の機関以外にどのようなガバナンス上の組織(任意設置の諮問委員会等)を設置しているか及び当該組織の責務、③取締役の選任・資格基準、④会社が理解している取締役の責務の内容、⑤取締役の報酬に関する基本的な考え方、⑥取締役の経営陣及び独立のアドバイザーへのアクセスに関する事項、⑦取締役のトレーニングに関する事項、⑧経営陣の承継に関する事項、並びに⑨取締役会の年次自己評価に関する事項を盛り込むことが考えられる。

 コーポレートガバナンス基本方針の具体的な内容については、筆者が策定に関与した日本取締役協会の「コーポレートガバナンスに関する基本方針ベスト・プラクティス・モデル(2015)」も一つの参考としていただきたい。

 紙幅の関係で、コードの各原則にどのように対応すべきかという各論には立ち入らないが、これについても、上記「コーポレートガバナンスに関する基本方針ベスト・プラクティス・モデル(2015)」は、対応に関するベスト・プラクティスを示すものとして参考になると思われる。

4.おわりに

 コードへの対応に重要なことは、会社が中長期的な企業価値を向上させるためどのような戦略を持ち、それをどのような体制で実現していくのかについて、中長期的視点に立つ投資家に響くよう、いかにストーリー性をもって伝えることができるかということである。

 各社が、コードの各論だけに目を奪われず、自社の経営戦略について改めて検討し、その実現に全社的に取り組むこと、その姿勢を株主に対して示すことが望まれている。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所 パートナー
    弁護士・ニューヨーク州弁護士 髙木 弘明

略歴

2001年
東京大学法学部第一類卒業
2005年
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 非常勤講師
2008年
シカゴ大学ロースクール卒業(LL.M.)
2008年-2009年
ニューヨークのポール・ワイス・リフキンド・ワートン・アンド・ガリソン法律事務所
2009年-2013年
法務省民事局参事官室出向(2010-2013年法務省民事局商事課併任)

主な著書

2015年6月
「コーポレートガバナンス基本方針の策定に向けた実務対応」旬刊商事法務2070号
2015年5月
『監査等委員会設置会社のフレームワークと運営実務』(商事法務)
2015年3月
『平成26年会社法改正と実務対応[改訂版]』(商事法務)

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