コラム

第六十四回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させて いただきます。今回のコラムにおいては、給与所得等に係る住民税の特別徴収税額の納税義務者用の通知書の取扱いについて取りまとめていただ いております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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給与所得等に係る住民税の特別徴収税額の通知書(納税義務者用)の取扱いについて
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2015/5/15
地方税法321条の4(給与所得に係る特別徴収義務者の指定等)の規定により、市町村は、住民税の特別徴収義務者に対して、給与所得等に係る住民税の特別徴収税額の決定・変更通知書を送っていますが、この通知書には、「(納税義務者用)」と表示されたもの(以下、「納税義務者用通知書」といいます。)が含まれています。

 この納税義務者用通知書は従業員に渡さなければならないものなのかという声が聞かれます。
 従業員が多数にわたる企業においては、この納税義務者用通知書を交付する作業は、思いの外、手間がかかることになります。

 住民税の特別徴収税額は給与から控除しなければなりませんから、給与明細書に記入されることになり、従業員は、自己の住民税の特別徴収税額を給与明細書から知ることができるわけですが、それにもかかわらず、納税義務者用通知書を従業員に交付しなければならないということになると、企業としては、無駄な作業をさせられているのではないかという疑問が生じてくるのも故なしとしないと考えられます。

<参考>
 市町村に、「納税義務者用は従業員に渡さなければならないのですか?」という質問をすると、必ず「渡して下さい」という回答が来る、と聞いていますが、筆者も、2か所に「特別徴収税額は給与明細書に明記し、納税者用は従業員から要望があった場合にだけ渡す、ということでは駄目なのですか?」という質問をしてみたところ、やはり同様に「渡してもらう必要があります」という回答でした。

 まず、地方税法321条の4第1項の規定を確認してみましょう。

 (給与所得に係る特別徴収義務者の指定等)
第321条の4   市町村は、前条の規定によつて特別徴収の方法によつて個人の市町村民税を徴収しようとする場合においては、当該年度の初日において同条の納税義務者に対して給与の支払をする者(他の市町村内において給与の支払をする者を含む。)のうち所得税法第183条の規定によつて給与の支払をする際所得税を徴収して納付する義務がある者を当該市町村の条例によつて特別徴収義務者として指定し、これに徴収させなければならない。この場合においては、当該市町村の長は、前条第1項本文の規定によつて特別徴収の方法によつて徴収すべき給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額又はこれに同条第2項本文の規定によつて特別徴収の方法によつて徴収することとなる給与所得以外の所得に係る所得割額(同条第4項に規定する場合にあつては、同項の規定により読み替えて適用される同条第2項本文の規定によつて特別徴収の方法によつて徴収することとなる給与所得及び公的年金等に係る所得以外の所得に係る所得割額)を合算した額(以下この節において「給与所得に係る特別徴収税額」という。)を特別徴収の方法によつて徴収する旨を当該特別徴収義務者及びこれを経由して当該納税義務者に通知しなければならない。

 この地方税法321条の4第1項においては、後段に「当該市町村の長は、(中略)特別徴収の方法によつて徴収すべき給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額(中略)を特別徴収の方法によつて徴収する旨を当該特別徴収義務者及びこれを経由して当該納税義務者に通知しなければならない」と定められています。

 すなわち、市町村の長は特別徴収義務者を経由して納税義務者に特別徴収する住民税の額を通知しなければならない、とされているわけです。
 この規定は、文字どおり、「市町村の長」に義務を課したものであって、「特別徴収義務者」に義務を課したものではありません。
 そもそも、地方税法には、住民税の特別徴収義務者に納税義務者への特別徴収税額等の通知義務を課す規定は、存在しません。

 しかし、地方税法321条の4第1項後段においては、市町村の長が特別徴収義務者を経由して納税義務者に通知をしなければならないと規定していることから、特別徴収義務者は市町村の長が交付した納税義務者用通知書を従業員に交付する義務があると解釈できるという意見も有り得るものと思われます。

 確かに、地方税法321条の4第1項後段の規定は、特別徴収義務者が納税義務者に納税義務者用通知書を交付することを予定するものと捉えることができます。
 しかしながら、特別徴収義務者に納税義務者への納税義務者用通知書の交付を義務付ける旨の規定が無い以上、当該交付は、せいぜい「期待」に止まり、「義務」とまで解することはできません。

 地方税法321条の4第1項後段の規定が特別徴収義務者に納税義務者への納税義務者用通知書の交付を義務付けるものと解されないことは、当該規定と次の地方税法50条の9(特別徴収票)とを比べて見ても、明らかです。

(特別徴収票)
第50条の9   分離課税に係る所得割の特別徴収義務者は、総務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した退職手当等について、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に特別徴収票2通を作成し、その退職の日以後1月以内に、第328条の14の特別徴収票とあわせて、1通を市町村長に提出し、他の1通を退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。ただし、総務省令で定める場合は、この限りでない。

 この地方税法50条の9の規定は、「特別徴収義務者」が「退職手当等の支払を受ける者」に「特別徴収票」を「交付しなければならない」ということを明確に定めています。
 このように、同じ地方税法の中で、特別徴収義務者に書面の交付を義務付けるものとそうでないものとがあるわけですから、書面の交付義務に関して両者が同じ解釈になるということは、有り得ないはずです。
 すなわち、納税義務者用通知書に関しては、特別徴収義務者は納税義務者に交付することを義務付けられてはいない、と考えられます。

 ただし、納税義務者である従業員は、地方税法321条の4第1項後段の規定を根拠に、特別徴収義務者である企業に自らの納税義務者用通知書の交付を請求する権利があると解されます。

 このため、従業員に納税義務者用通知書を交付しないこととする企業においては、従業員が自らの納税義務者用通知書の交付を希望する場合には当該従業員に当該納税者用通知書を交付することとし、その旨を従業員に周知しておくのが適当であると考えられます。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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