コラム

第六十三回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の弁護士、村田知信先生に執筆していただきました。村田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、不正競争防止法による営業秘密保護の内容とその改正法案についての解説及び、改正法案が企業活動に与える影響について取りまとめていただいております。

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営業秘密保護強化の動き
西村あさひ法律事務所
弁護士 村田知信
2015/4/15

営業秘密保護強化の動き

 平成27年3月13日、不正競争防止法(以下「不競法」)が定める営業秘密保護の強化を主眼とした「不正競争防止法の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」)が閣議決定された。本コラムでは、不競法による営業秘密保護の内容と改正法案について解説した後、改正法案が企業活動に与える影響について若干の検討を行う。

1.不競法による営業秘密保護の内容

 不競法が保護する営業秘密には、顧客名簿等の営業情報、設計図等の技術情報が広く含まれる。ただし、営業秘密として保護されるためには、問題となる情報が、(a)秘密として管理されている、(b)公然と知られていない、(c)事業活動に有用である、という3要件を満たす必要がある。

 不競法は、大要、(a)上記3要件を満たした営業秘密が、(b)不正に取得、開示又は使用された場合に、(c)行為者が差止請求、損害賠償請求等又は刑事罰の対象になり得る旨定めることで、営業秘密を保護している。

2.改正法案の趣旨及び概要

 経済産業省の公表情報によれば、改正法案の趣旨は、近年企業情報の国内外への流出事案が相次いで顕在化していることを踏まえ、被害金額の高額化及びサイバー空間の拡大に伴う手口の高度化等に対応し、営業秘密侵害行為に対する抑止力の向上等を刑事・民事両面で図ることにある。

 また、同公表情報によれば、改正法案の現時点の概要(国会審議の過程で修正される可能性がある)は以下のとおりである。

【営業秘密侵害行為に対する抑止力向上のための改正】
(a) 罰金額の引上げ及び犯罪収益の没収等の規定を創設(刑事)
(b) 営業秘密侵害罪の非親告罪化(刑事)
(c) 民事訴訟において、物の生産方法に係る営業秘密の不正取得(悪意又は重過失による転得を含む。以下同じ)が立証された場合に、当該営業秘密の使用を推定する規定等を創設(民事)
(d) 営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等を禁止し(善意又は無重過失による転得者は例外)、差止め等の対象とする(民事)とともに、刑事罰の対象とする(刑事)

【営業秘密侵害罪の処罰範囲整備のための改正】(刑事)
(e) 不正開示が介在したことを知って営業秘密を取得し転売等を行う者を処罰対象に追加
(f) 営業秘密の海外における取得行為を処罰対象に追加
(g) 営業秘密侵害の未遂行為を処罰対象に追加
 

3.改正法案のポイント

 上記のとおり、改正法案は、従業員等が意図的に海外企業等に営業秘密を提供し利益を得るような行為に対するペナルティを強化し、そのような行為を抑止することを主眼としている。そのため、刑事罰の強化が中心であるが、日常的な企業活動では、刑事事件になる程の事案が発生することは少ない。

 それ故、本項では、主に民事上の改正案(上記2.の(c)及び(d))について説明する。当該改正案が施行された場合の結果を具体的に示すと、以下のとおりとなる。

  •  ・A社が物の生産方法に係るB社営業秘密(設計図等)を不正取得した場合、B社営業秘密を使用する行為により生産できるA社製品は、B社営業秘密を使用して生産されたと推定される。
  •  ・A社は、当該推定を覆すために、A社の社内資料等によってB社営業秘密の不使用を立証しなければならず、立証に成功しなければ、A社製品の生産、販売等が差止請求、損害賠償請求等の対象となる。
 

 このように、上記改正案は、物の生産方法に係る営業秘密が不正取得された場合、物の生産に使用されたと考えるのが合理的であることから、使用の事実が推定されることを明文化し、不正取得者に対する製品の生産、販売等の差止請求、損害賠償請求等を容易にしたものである。改正法案は、刑事罰の強化の他にも、民事上の請求を容易にすることによって、営業秘密の保護を強化しているのである。

4.企業活動に与える影響

 企業活動の過程で留意すべき営業秘密に関するリスクは、(1)自社の営業秘密を他社に不正取得、開示又は使用(以下「不正取得等」)されるリスク、(2)他社の営業秘密を自社が不正取得等してしまうリスクに大別される。以下、当該2つのリスクの観点から検討する。

(1) 自社の営業秘密を他社に不正取得等されるリスクの観点

 改正法案は、営業秘密の保護強化を主眼とするものなので、上記(1)のリスクを低減する方向に働くと言える。もっとも、改正法案はペナルティの強化が中心であるところ、一度営業秘密が流出してしまうと、流出させた者にペナルティを課したところで、被害を完全に回復させることは難しい。それ故、営業秘密の流出を防ぐ管理体制の重要性が変わるものではない。

(2) 他社の営業秘密を自社が不正取得等してしまうリスクの観点

 上記(1)とは逆の理由で、改正法案は、他社の営業秘密を不正取得してしまった場合のリスクを増加させる方向に働くと言える。それ故、不正取得を防ぐための管理体制がより重要となる。

 具体的には、意図的に他社の営業秘密を窃取するような行為を行わないことは当然として、転職者の採用や他社からの技術供与、他社との技術交流等の過程で他社由来の情報を取得する場合も留意が必要である。他社から営業秘密の不正取得等を主張されないため、採用の際の確認、意図せず他社由来の情報が自社由来の情報に混入(コンタミネーション)することを防ぐための管理措置、他社との契約条件の遵守等を適切に実施することが大切である。

 また、上記(2)のリスクは、時にM&Aにおいても問題となる。例えば、下記図のような場合である。


 上記図において、②の情報にB社営業秘密が混入していた場合、B社が、A社に対して、B社営業秘密の不正取得(上記図においては正確には悪意又は重過失による転得)を主張してくるリスクが存在する。

 実際には、B社が、C社からA社にどのような情報が提供され使用されているかを正確に知ることは難しい。それ故、B社が上記のような主張を行うことは通常容易ではない。ただし、改正法案の施行後は、B社は、A社が悪意又は重過失によって物の生産に係るB社営業秘密を転得したことの立証に成功した場合、A社によるB社営業秘密の使用が推定されるとして、A社製品の生産、販売等の差止、損害賠償等を求めてくると思われる。それ故、当該リスクが現実化した際に事業活動に与え得る影響は軽視できない。

 当該リスクを低減するために、競合会社から技術供与を受けている会社から事業を買収する場合は、(a)競合会社由来の情報の提供について競合会社との契約で手当てするか(ただし、それが難しい場合も想定される)、(b)デューデリジェンスの過程で、競合会社由来の情報が相手方会社由来の情報に混入(コンタミネーション)することを防ぐ管理措置が採られており、当該情報のみ提供させることが可能であるか確認することが望ましい。そのような措置を採っておけば、悪意又は重過失による転得を否定する根拠になり得る。

5.最後に

 営業秘密に係るリスク管理の意識は企業によって大きく異なる。上記4.で述べたリスクは、改正法案が施行されていない現時点でも問題になり得る点であるため、今回の営業秘密保護強化の動きを契機に、自社の営業秘密管理について今一度見直してみることも良いと思われる。

以上

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    アソシエイト 弁護士
    村田 知信

略歴

2007年
慶応義塾大学法学部卒業
2009年
東京大学法科大学院修了
2010年
第二東京弁護士会登録

主な著書

2014年6月
「不競法裁判例を類型別に整理~権利化していない場合の争い方」 Business Law journal NO.65(2014年8月号)

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