コラム

第六回目の専門家コラムは、弊社社外パートナーの仁木淳二氏に執筆していただきました。仁木氏の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、IFRS導入の影響をグループ経営の視点から纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
電子メール:info@amidaspartners.com ※全角「@」を、半角「@」に置き換えて、送信してください。

財務報告に関連する制度への対応とグループ経営 ~国際会計基準を中心に~
仁木中小企業診断士事務所 弊社社外パートナー 仁木淳二
2010/5/15

はじめに

 ここ数年、上場企業およびそのグループ会社の方々にとって、財務報告に関連する制度の動向は重要な関心事のひとつになっていることと思われます。そのひとつとして、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度が2008年4月1日以後開始の事業年度からスタートしたことは記憶に新しいところです。

 そして、今はまさに会計制度を巡ってその先行きが注目を集めているところであり、我が国でもいよいよ国際会計基準(*1)(以下、「IFRS」と表記します)が本格的に導入されようとしている、といった状況にあります。

 財務報告に関わるこれらの制度の動向は、各社におけるM&Aを含むグループ経営全般にも少なからぬ影響を及ぼすものと考えられます。本稿では、IFRSを巡る動向に焦点を当て、今後予想されるIFRSの導入がグループ経営およびM&Aに与えると思われるインパクトについて取り上げたいと思います。

*1 IASB(国際会計基準審議会)によって設定される会計基準の総称であるIFRSは「国際財務報告基準」と訳されますが、ここでは金融庁の公表資料をはじめ広く一般的にも使用されている「国際会計基準」の名称を用いています。

IFRSを巡る我が国の動向

 既に周知の通りではありますが、現在我が国においては、2007年8月のいわゆる「東京合意」に基づいて、日本基準とIFRSとの差異を解消していくための動き(コンバージェンス)が着々と進んでいます。

 また一方で、IFRSそのものの適用(アドプション)を巡っては、2009年6月30日に金融庁より公表された「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」に続き、2009年12月11日にはいわゆる連結財務諸表規則等の一部を改正する内閣府令が公布・施行され、一部の対象企業(特定会社)について、2010年3月31日終了の連結事業年度からIFRSの任意適用が認められることとなりました。

 さらに、2012年を目途に、IFRSを強制適用するかどうかの判断を行うことが予定されており、強制適用となった場合には2015年または2016年に適用開始となることが検討されています。

グループ経営/M&Aの視点からみた注目ポイント

 会計基準とM&Aとの関連といえば、企業結合会計やのれんの取扱いに関する会計処理などが挙げられますが、ここではこれらのトピックについては割愛させていただき、グループ経営の観点から以下の3点について取り上げたいと思います。

>グループ会計方針等の統一

 連結財務諸表は、同様の状況における類似及びその他の事象に関し、統一の会計方針 (uniform accounting policies) を用いて作成しなければならないとされています (IAS27.24 / IAS28.26)。また、連結財務諸表作成に用いる親会社及び子会社の財務諸表は、同一の報告日で作成しなければならず、報告日が異なる場合には、実務上不可能でない限り、親会社と同じ日付の財務諸表を追加で作成することとされています (IAS27.22)。

 日本基準においても、在外子会社・関連会社の会計方針を統一する旨の規定は既に適用開始となっていますが、米国基準やIFRSの採用が容認されていることもあり、グループ会社は基本的にそれぞれ自国の基準に準拠していることが前提となっているものと思われます。

 今後は、IFRSというひとつのルールをベースとして、国内外を問わずグループ全体で会計方針等を統一する動きが進んでいくものと思われます。特に、IFRSは具体的な数値基準などを設けない「原則主義」であることから、親会社が主体となって個々の取引についての具体的な会計処理等を定め、グループ会社に統一的に適用するといった対応が求められてくるでしょう。

 M&Aの現場においても、通常デューデリジェンスの段階において対象会社の会計方針等についての調査が行われますが、今後は国内外を問わず、対象会社が採用している会計基準は何か、個別の会計処理のルールはどのようなものとなっているかなど、会計方針全般に関する調査がより重要となってくるものと考えられます。そのうえで、自社(グループ)の会計方針との差異の内容を見極め、対象会社の過年度の実績や事業計画数値などを調整するといったケースも多くなるのではないかと思われます。

>マネジメント・アプローチ

 我が国においても「セグメント情報等の開示に関する会計基準」が2010年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度から適用となりましたが、セグメント情報の開示において、いわゆる「マネジメント・アプローチ」が採用されることとなります。

 マネジメント・アプローチは、企業の「最高経営意思決定機関」が、経営上の意思決定や業績評価のために利用している単位を報告セグメントの基礎とするものであり、しばしば「制度会計と管理会計の一致」と表現されるように、内部の経営管理上の視点により近い情報が開示されることになるものと想定されています。

 この規定の適用は、グループにおける事業単位での情報収集や業績管理のあり方などについて改めて検討を促す機会になるとともに、ひいてはグループ会社の事業の整理や集約など、グループ内再編が進むきっかけになることも考えられます。各社のグループ経営やM&Aに関する方針が、外部に対してこれまで以上に明らかになっていくかもしれません。

>財務諸表の表示

 現時点においてプロジェクトが進行中の段階ではありますが(*2)、財務諸表の様式が大きく変わる可能性があるのは大変注目に値するところです。

 2008年10月にIASBとFASB(米国財務会計基準審議会)の共同で公表された「財務諸表の表示に関する予備的見解」によると、財務諸表(財政状態計算書、包括利益計算書、キャッシュ・フロー計算書)の表示は、以下のように区分されることが提案されています。つまり、財務諸表間の関係をより明確にし一体性をもった情報を表示する目的から、各々の財務諸表において事業(営業と投資)や財務、非継続事業といった共通の区分に分類することが求められることとなっています。(*3)

財務諸表の表示区分

 上記のような財務諸表の表示の変更(特に非継続事業に関する開示の要請(*4))は、グループ経営の観点では、グループにおける事業の業績評価や撤退・廃止基準等の一層の明確化を促すことが予想されます。その結果として、前述の「マネジメント・アプローチ」がもたらすであろうインパクトと同じように、事業の整理や再編などが進むきっかけになることも考えられます。

 また、提案されているこの新たな区分表示の内容は、企業価値評価に有用な情報が開示されることを強く意識したものとなっていると思われます。資産・負債や損益などを事業(営業と投資)や財務、および非継続事業といった分類に区分することは、まさにM&Aの現場などにおいて、対象企業の価値評価のために当該企業への調査を通じて行われる分析作業にも通じるものがあり、これらの情報が開示されることになる意義は大きいものと思われます。
(なお、実際にこの様式が導入されることとなった場合でも、IFRSの適用対象は連結財務諸表とされているため、個別財務諸表レベルで作成されるかどうかは各社の対応によって異なるということも考えられますが、いずれにしても、非常にインパクトの大きな変更といえると思います。)

*2 財務諸表の表示に関するIASBとFASBの共同プロジェクトのうち、「Phase B」として進められている、IAS第1号/IAS第7号の置き換えなどのプロジェクトを指します。
*3 事業や財務などの区分については、まず資産および負債についてその分類を行い、その分類に基づいて包括利益計算書およびキャッシュ・フロー計算書における表示区分が決定されることとされています。
*4  非継続事業の開示に関しては、上記の財務諸表の表示の変更に関するプロジェクトとは別に、IASBとFASBの共同プロジェクトによるIFRS第5号の改訂作業の状況等を踏まえ、我が国においても、非継続事業に関連する損益の損益計算書における区分表示についての検討が進められています。

IFRS導入へ向けた対応

 現在のところ、IFRSへの各社の対応を巡っては、その適用対象が連結財務諸表とされていることから、連結財務諸表の作成段階でIFRSに合わせるための調整を行う方法(主に親会社中心の対応)、グループ各社でIFRSベースの個別財務諸表を作成し、それらをもとに連結を行う方法(グループ各社も含んだ対応)、それ以外の方法(例えば地域統括会社やシェアードサービスセンターによる業務の集約化)など、様々なパターンが想定されています。

 そのため、既存のグループ各社における対応はもとより、M&Aによって新たな企業が自社グループに加わる場合においても、当該企業の戦略的な位置付け、組織体制や情報システムなどのインフラの整備状況といった様々な要素を勘案したうえで、どのようにIFRSへの対応を含めた統合を図っていくかがポイントとなってくるものと思われます。

 ちなみに、上記のような様々な対応パターンがありうることを前提とした場合、各社のIFRSへの対応方針に関しては、既に適用開始となっている内部統制報告制度もひとつの参考になるのではないかと考えられます。

 同制度では、グループ内で一定の規模を有する拠点を「重要な事業拠点」と定義し、これらについては決算財務報告プロセス以外の業務を含むより広範なレベルでの内部統制評価を行うことが求められています。そのため、同制度への対応を機に、「重要な事業拠点」およびそれと同等のグループ会社を対象として、主要な業務の標準化などを推進された例も多いのではないかと思います。

 IFRSへの対応においても、このような考え方を参考に、例えば事業規模やその他の指標など一定の条件のもとにグルーピングを行い、それぞれのカテゴリーごとに適切と考えられるレベルで業務の標準化を含めた対応を図っていくことも考えられるのではないかと思います。

IFRS導入へ向けた対応

結び

 財務報告に関する制度の新設あるいは改正が進むなか、制度への対応それ自体が企業経営の目的でないことは言うまでもありませんが、これらをいわゆる上場維持コストのようなものと捉えるか、それとも経営全般を見直すための機会と捉えるかによって、その意味するところも大きく変わってくるものと思います。

 そのひとつである会計基準の国際的な統一の流れとも相俟って、今後、多くの日本企業にとって、国内外のグループ会社への統一ルールの適用や業務プロセスの標準化、および業績のモニタリングなど、グループ経営におけるガバナンスの再構築が重要な課題のひとつになってくるのではないかと考えられます。
(個人的な印象では、欧米などのいわゆる外資系企業の方が、その点においてはより徹底されているように思いますが、その良し悪しは別としても、検討の機会は増えるものと思います。)

 そして、このような経営環境におけるM&A戦略の実行に際しては、個々の案件についての自社グループにおける戦略的意義や統合上の問題などについて、初期の段階からこれまで以上に十分な検討を行うなど、案件成立後の統合プロセスを踏まえた意思決定が一層重要性を増してくるものと考えております。

執筆者紹介

  • 仁木中小企業診断士事務所
    弊社社外パートナー
    仁木淳二

略歴

大手コンピュータ関連会社に勤務後、プライスウォーターハウスコンサルタント(株)(現 IBM BCS(株))にて、連結経営等に関する業務改善支援業務、ベンチャー企業支援業務、(株)グローバル・マネジメント・ディレクションズ(現 (株)KPMG FAS)にてM&Aアドバイザリー業務などに従事。

その後、外資系事業会社にて管理会計業務(事業計画策定等)、独立系コンサルティング会社にて内部統制構築支援業務(J-SOX法対応)などに従事し、2009年に個人事務所を開業、現在に至る。
主要業務は、事業計画策定支援、M&A/事業再生等実行支援、業務改善/内部管理体制等構築支援など。

中小企業診断士
社団法人日本証券アナリスト協会検定会員
米国公認会計士試験合格(ハワイ州)

最新コラム

アミダスパートナーズについて
お問い合わせ