第六十四回目の専門家コラムは、司法書士法人鈴木事務所の代表社員であり、司法書士、行政書士である鈴木龍介先生に執筆していただきました。鈴木先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、平成27年5月1日施行される「平成26年改正会社法」における「商業登記実務のポイント」について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
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1.はじめに
平成26年改正会社法(平成26年法律90号/以下、「改正会社法」という。)が平成27年5月1日施行されることが決まり、改正会社法の、いわゆる整備法(平成26年法律91号)で商業登記法の改正がなされ、それに関する商業登記規則の改正(平成26年法務省令33号/以下、「5月1日改正商登規」という。)が公布されるとともに、登記通達(平成27・2・6民商13号通達)と登記記録例(平成27・2・6民商14号依命通知)が発出された。
本稿は、改正会社法における商業登記実務のポイントについて解説するものである。
なお、改正会社法自体の解説は、最小限にとどめていることからに、あわせて関係法令や関連する文献等を参照されたい。
2.監査等委員会設置会社
改正会社法において創設された監査等委員会設置会社制度は、上場会社等のあらたな機関設計として注目を集めている。株式会社であれば、公開会社であるか否か、大会社であるか否かを問わず、監査等委員会設置会社に移行することができる。
実務上多数を占めると思われる会計監査人設置会社である監査役会設置会社が監査等委員会設置会社への移行する場合、次の事項が登記すべき事項となる(改正会社法911条3項22号イ・ロ・ハ)。
あわせて、監査等委員会設置会社は監査役と監査役会を設置できないことから、監査役設置会社・監査役会設置会社の定めの廃止と監査役の退任の登記をしなければならない。また、現任の取締役については、残存任期の有無にかかわらず、移行時に全員が任期満了退任することから(改正会社法332条7項1号)、(代表)取締役の退任・就任(重任)の登記をしなければならない。
3.社外取締役・社外監査役
改正会社法において、社外取締役・社外監査役の要件をより独立性を高め、合理性のあるものとする見直しがなされる(改正会社法2条15号・16号/以下、「新要件」という。)。そこで、これまで社外取締役・社外監査役でなかった者が新要件により社外取締役・社外監査役に該当することになるケースと、逆に社外取締役・社外監査役であった者が新要件により社外取締役・社外監査役に該当しなくなるケースが生ずる。
改正会社法施行後は、新要件に基づき、社外取締役・社外監査役である旨の登記を行うことになる(会社法911条3項18号・21号ハ、改正会社法911条3項22号ロ・23号イ)。なお、責任限定契約に関しての社外取締役・社外監査役である旨の登記(会社法911条3項25号・26号)にかかる規定は削除される。したがって、社外取締役については、社外取締役を置くことが要件とされるⅰ)特別取締役の議決の定めがある会社(会社法911条3項21号ハ)、ⅱ)監査等委員会設置会社(改正会社法911条3項22号ロ)、ⅲ)指名委員会等設置会社(改正会社法911条3項23号イ)である場合に、社外取締役である旨の登記をすることになる。社外監査役については、社外監査役を置くことが要件とされる監査役会設置会社(会社法911条3項18号)である場合に限り、社外監査役である旨の登記をすることになる。
改正会社法施行前から存する社外取締役・社外監査役について、改正会社法施行後の最初に終了する事業年度に関する定時株主総会終結時までの間は改正会社法前の規定が適用されることから(改正会社法附則4条)、改正会社法施行後ただちに、新要件に基づく登記申請は要しないものとされている。
4.責任限定契約
改正会社法において、責任限定契約の人的対象が社外取締役から非業務執行取締役へ、社外監査役から監査役へとそれぞれ拡張されたことに伴い(改正会社法427条1項)、責任限定契約にかかる社外取締役・社外監査役である旨の登記は要しないこととされた。ただし、責任限定契約にかかる社外取締役・社外監査役である旨の登記については、当該社外取締役・社外監査役の任期中に限り、その旨の登記の抹消の登記申請をすることは要しないものとされている(改正会社法附則22条2項)。
改正会社法施行前に責任限定契約に関する定款の定めを設けている会社が、当該契約の対象を社外取締役から非業務執行取締役へ、社外監査役から監査役へとする定款変更を行った場合には、責任限定契約に関する定款の定め(改正会社法911条3項25号)についての変更登記を行うことになる。
5.監査役の監査の範囲
監査役の監査の範囲は、原則として業務監査と会計監査に及ぶが、非公開会社(会社法2条5号参照)の特則として、その監査の範囲を会計監査に限定(以下、「会計監査限定」という。)する旨を定款で定めることができる(会社法389条1項)。
会社法上、監査役設置会社とは、会計監査限定でない監査役を置いている株式会社と定義しており(会社法2条9号)、会計監査限定とする旨の定款の定めがある非公開会社は、監査役設置会社には該当しない。一方で会計監査限定の監査役を置いている株式会社であっても監査役設置会社である旨の登記がなされており(会社法911条3項17号)、公示上適切とはいえない。
そこで、改正会社法において、会計監査限定の監査役を置いている株式会社は、その旨を登記することにより当該監査役の監査の範囲を明らかにすることとしたものである(改正会社法911条3項17号イ)。
改正会社法施行後、会計監査限定とする旨の定款の定めがある株式会社は、会計監査限定である旨が役員区に登記されることになる(5月1日改正商登規別表5)。
改正会社法施行前から会計監査限定の定めがある株式会社は、改正会社法施行後、あらたに監査役が就任するか、現任の監査役が退任するまで、すなわち監査役の変更登記を行うまでの間は、会計監査限定である旨の登記の申請を要しないものとされている(改正会社法附則22条1項)。