平成27年度の受取配当益金不算入制度の改正
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2015/2/13
平成27年度税制改正により、受取配当益金不算入制度における益金不算入割合が引き下げられます。
平成27年度税制改正による改正前と改正後の取扱いの概要は、次の表のとおりです。
このような改正の理由に関しては、平成26年6月に政府税制調査会が公表した「法人税の改革について」において、次のように説明されています。
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「企業の株式保有は、支配関係を目的とする場合と、資産運用を目的とする場合がある。支配関係を目的とする場合は、経営形態の選択や企業グループの構成に税制が影響を及ぼすことがないよう、配当収益を課税対象から外すべきである。他方、資産運用の場合は、現金、債券などによる他の資産運用手段との間で選択が歪められないよう、適切な課税が必要である。
この観点から、支配関係を目的とした株式保有と、資産運用を目的とした株式保有の取扱いを明確に分け、益金不算入制度の対象とすべき配当等の範囲や、益金不算入割合などについて、諸外国の事例や、会社法における各種の決議要件、少数株主権などを参考にしつつ、見直すこととする。その際、市場に与える影響に留意が必要である。」 |
昭和61年10月28日の政府税制調査会の「税制の抜本的見直しについての答申」においては、受取配当益金不算入制度に関して次のように述べられていました。
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「親子会社間の配当のように、企業支配的な関係に基づくいわば同一企業の内部取引と考えられるものについては、仮にこれに課税すると、事業を子会社形態で営むよりも事業部門の拡張や支店の設置等による方が税制上有利となり、法人間の垂直的統合を促すこととなる等、企業の経営形態の選択等に対して法人税制が非中立的な効果をもつという弊害が生じるおそれがある。これに対し、このような関係を有しない法人の株式は一種の投資物件という性格があり、また、企業の資産選択の実態等を踏まえると、法人が投資対象として保有する株式に係る配当についてまで益金不算入という取扱いをしなくてもよいのではないかと考えられる。」 |
また、平成63年4月28日の政府税制調査会の「税制改革についての中間答申」にも、受取配当益金不算入制度に関して上記と全く同じ文章が用いられています。
近年の税制改正に関しては、その考え方や理論が良く分からないものが増えていますが、上記の平成26年6月の記述においても、どのような考え方に基づいて見直しを行うのかということがよく分かりません。
他方、上記の昭和61年10月28日の記述においては、「同一企業の内部取引と考えられるもの」については課税をするべきではなく、「一種の投資物件という性格」がある株式の配当については課税をするべきである、というように改正の考え方がはっきりと述べられています。
これらの二つの記述を比べて見ると、実質的には同じ内容であることが分かります。
このように、平成27年度税制改正は、「同一企業の内部取引と考えられるもの」については課税をするべきではなく、「一種の投資物件という性格」がある株式の配当については課税をするべきである、という考え方に基づく改正ということになるわけですが、このような考え方は、受取配当益金不算入制度を創設する根拠となったシャウプ勧告の考え方とは大きく異なるものです。
シャウプ勧告の考え方からすれば、法人税として所得税の前払いを行った後の法人の利益が株主である個人に届くまでの間に、「擬制」である法人の間において授受される配当については、その株式の持分割合の如何にかかわらず、その全額が課税されるべきではない、ということになります。
これに対して、株式の持分割合に応じて課税関係を変えるべきであるという考え方は、法人を「実在するもの」と捉えていなければ、出て来ないものです。
昭和63年度税制改正においては、平成63年4月28日の政府税制調査会の「税制改革についての中間答申」に基づき、株式を発行済株式の25%以上を保有する「特定株式」とそれ以外の株式とに分けて益金不算入割合をそれぞれ100%と80%とするという改正が行われたわけですが、その後は、このような考え方に基づいて更に平成27年度税制改正のような改正まで行われることとなっているわけです。
現在の「完全子法人株式等」に係る配当に関しては、益金不算入割合が100%となっており、この取扱い自体は、シャウプ勧告直後の取扱いと同じですが、このような取扱いとする理由は、シャウプ勧告直後の取扱いの理由と全く異なっています。
また、平成27年度税制改正により、株式投資信託の分配金に関しては、株式の配当が含まれているにもかかわらず、全額が益金算入とされることとなります。
このように、株式の配当が含まれていることが明らかであるにもかかわらず、全額を益金算入とするという取扱いの正当性をシャウプ勧告の考え方から説明することは、不可能です。
上記の昭和61年10月28日の記述においては、シャウプ勧告直後の受取配当益金不算入の取扱いをどのように考えるべきかという問題提起をする理由として、次のように、「法人企業の株主構成の変化」を挙げる説明がなされています。
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「シャウプ勧告後の昭和30年代、40年代を通じる経済の高度成長の下で、経済活動に占める法人企業の地位が増大し、それに伴い、企業の経営形態や資本調達の態様にも著しい変化が生じてきているが、このことは法人企業の株主構成の変化に端的に表れている。全上場会社について所有者別持株比率の推移をみると、昭和25年当時は、個人株主が約6割、法人株主が約4割であったが、その後今日に至るまで法人の株式保有はほぼ一貫して増加してきている。すなわち、法人企業は、いわゆる安定株主工作等を通じて、主として法人間の持合いの影響により、株式の保有割合を増加させてきており、昭和60年度では全上場会社株式の約4分の3を法人株主が保有するに至っている。一方、個人株主の数は増加しているものの、株式保有割合は一貫して低下してきている。」 |
この説明にあるように、「主として法人間の持合いの影響」がシャウプ勧告直後の取扱いの見直しの理由であるとすれば、「法人間の持合い」が減少した現在においては、昭和63年度税制改正後の取扱いからシャウプ勧告直後の取扱いに近づけるべきであるということになります。
筆者としては、シャウプ勧告の考え方が採られなくなった理由は、そもそも法人が「擬制」であるという考え方は概念的に過ぎるもので実態に合っていなかったこと(注1)、そして、配当と株式譲渡損益は実質的に同じ性質の所得という性格が強いこと(注2)、この二つが大きいものと考えています。
(注1) |
諸外国の法人税法においても、法人は実在するものと捉えられているはずであり、法人を擬制と捉えて法人税法を定めている国は、無いはずです。 |
(注2) |
企業会計において、株式の時価評価の範囲が大きく拡大されたこと、会社法において、原資が利益性の剰余金であるか資本性の剰余金であるかを問わずに「剰余金の配当」を行い得ることとなったことなどは、税制において配当の取扱いを株式譲渡損益の取扱いに近づける要因となっていると考えられます。 |
このように捉えられるとすれば、受取配当益金不算入制度において益金不算入額を縮減する平成27年度税制改正のような流れは、「法人企業の株主構成の変化」とはかかわりなく、今後とも続く可能性が高い、ということになります。
もっとも、これは、政策的に配当所得を軽課するということを否定するものではなく、我が国企業の国際競争力を高めるという観点からすれば、諸外国と平仄を合せて受取配当の益金不算入割合を高めたり、個人の配当控除の割合を高めたりすることも、合理的な選択肢としてあり得るものと考えます。半世紀以上も前のシャウプ勧告を持ち出して益金不算入割合を高めるべきであるという主張を行っても殆ど説得力がないと考えますが、我が国企業の現在と将来を語ることには意義も説得力もあると考えます。