コラム

第五十八回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、役員の報酬の額の変更に関する法文の解釈について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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役員報酬の「臨時改訂事由」(後半)
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2014/11/14
(続)

  法人税法施行令69条1項1号ロの「臨時改訂事由」の定めは、平成19年度税制改正によって設けられたものですから、まず、その解説を確認してみましょう。財務省の『平成19年度 税制改正の解説』においては、「役員の職制上の地位の変更」と「役員の職務の内容の重大な変更」に関する法人税基本通達9-2-12の3と同旨の説明に続けて、次のように解説されています。

  「このように、臨時改訂事由による改訂は、上記イの「特別な事情」とは異なり、事業年度開始の日から3月経過日等までには予測しがたい偶発的な事情等によるもので、利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないものについても定期給与の額の改訂として取り扱うことを明示したものです。」(財務省『平成19年度 税制改正の解説』331頁)

 この解説文は、規定の創設の趣旨・目的の解説ではなく、規定の内容の解説という形態の文章となっていますが、その内容は、規定の創設の趣旨・目的を示しているものと解されます。この文章は、「このように、」という文言で始まっていますので、「職制上の地位の変更」「職務の内容の重大な変更」及び「これらに類するやむを得ない事情」の趣旨・目的を示しています。すなわち、「これらに類するやむを得ない事情」がどのようなものかということは、この解説文の読解によって趣旨・目的を把握して判断を行えばよい、ということです。

この解説文の構成は、「事業年度開始の日から3月経過日等までには予測しがたい偶発的な事情等によるもの」かつ「利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないもの」について、「定期給与の額の改訂として取り扱うことを明示した」ということになっています。

「事業年度開始の日から3月経過日等までには予測しがたい偶発的な事情等によるもの」の「3月経過日等」とは、「当該事業年度開始の日の属する会計期間開始日から3月を経過する日(保険会社にあっては、当該会計期間開始の日から4月を経過する日(中略))」とされています(同前330頁)。

 「予測しがたい偶発的な事情等」とは、「等」を除けば、文字通りの意味で捉えられるものと考えて良いでしょう。
 この「等」に関しては、「事情等」という用語を用いたものが『平成19年度 税制改正の解説』中には他に存在せず、また、前後の文章を検証してみても、推測の糸口となるものが全く存在しませんので、何を指しているのか、全く不明です。
 法令においても、「等」という用語は、その不明確さゆえに、出来るだけ避けた方が良いとされているわけですが、解説においても、この点は同様です。
 何を指すのか全く不明な用語は、そもそも考慮のしようもありません。

「利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないもの」の「利益調整」という用語は、『平成18年度 税制改正の解説』においては、全く用いられておらず、『平成19年度 税制改正の解説』において、急に用いられるようになったものですが、『平成19年度 税制改正の解説』においては、この「利益調整等」という用語を用いて、「役員給与」に関する法人税法34条1項2号・法人税法施行令69条1項1号イ及びロの取扱いに関して、これに該当しなければ制限を緩和する、という内容の改正が行われています。
 この「利益調整等」に関しては、「利益調整」が「所得の金額の意図的な操作」と解されるものの、やはり、上記の「事情等」の「等」と同様に、「等」の意味が全く不明です。
 「恣意性がある」とは、「意図的に」と解して良いものです。
 「必ずしもいえないもの」とは、「利益調整等の恣意性がある(もの)」を黒色に例えるとすれば、灰色のものということになり、黒色のものは「定期給与の額の改訂」とは取り扱わないが、灰色のものは「定期給与の額の改訂」と取り扱う、ということです。
 要するに、灰色は白色として取り扱う、ということであり、納税者にとっては、非常に歓迎するべき取扱いということになります。

「定期給与の額の改訂として取り扱うことを明示した」という部分は、文字どおり解することで済むものです。

 このように、上記の解説文は、「等」としているところに疑問が残るものの、その点を除けば、「臨時改訂事由」をかなり広範に捉えることとなる内容の文章となっています。
 この「臨時改訂事由」の趣旨・目的をしっかりと踏まえて、法人税基本通達9-2-12の3においても積み残しとなっている「これらに類するやむを得ない事情」の解釈を考えてみましょう。

 「これらに類するやむを得ない事情」の解釈

 「これら」とは、「職制上の地位の変更」と「職務の内容の重大な変更」となりますので、「これらに類する(中略)事情」がどのようなものかということが問題となります。
 この「類する」という用語は、前回、確認したとおり、「似る」「共通性がある」という意味です。

 まず、「職制上の地位の変更」に「類する事情」とはどのようなものとなるのかということを考えてみましょう。
 この「類する事情」は、「職制上の地位の変更」ではないけれどもそれに似た事情ということで、「職制上の地位の変更」との類似性によって判断することとなります。

 このような法令の用語の類似性の判断に際して、特別な方法があるわけではありませんので、この判断は、一般の例によることとなりますが、通常、このような判断は、「形式」と「内容」に基づいて行われているはずです。

 「形式」において、役員の「職制上の地位の変更」に似るものがあるかということを考えてみると、「職制上の地位の変更」という定め方が特定の状態を指さない一般的な定め方となっているため、そもそもそのようなものは存在しないように思われます。

 そうすると、「内容」において、役員の「職制上の地位の変更」に似るものがあるかということになりますが、これに関しては、例えば、大株主兼代表者であった者が会社の株式を手放したことによって代表者の地位を維持しつつも新株主の意向に沿って役員報酬を引き下げざるを得なくなったというようなケースは、役員の「職制上の地位の変更」によって役員報酬が下がったケースと似た事情にある、と言っても良いように思われます。代表者にとっては、その地位が維持されていたとしても、自らが大株主の地位を失ったということは、所有者でありかつ経営者であった状態から単なる経営者の状態になってしまい、所有者の意向に従わざるを得なくなったということになりますから、役員の中の職制上の地位の変更よりも実質的に大きな地位の変更があったと言っても良いように思われます。

 次に、「職務の内容の重大な変更」に「類する事情」とはどのようなものとなるのかということを考えてみましょう。
 この「類する事情」も、「職務の内容の重大な変更」ではないけれどもこれに似た事情ということで、「職務の内容の重大な変更」との類似性によって判断することとなります。
 「形式」において、「職務の内容の重大な変更」に似るものがあるかということを考えてみると、「職務の内容の重大な変更」はそれ自体が「内容」に関するものであるため、そもそも「形式」の類似性を探ること自体に無理があります。

 このため、これに関しても、「内容」における類似性の検討を行うこととなりますが、例えば、当該役員の職務の内容自体は変わらないが、当該役員を取り巻く環境の変化により、当該役員の置かれている状態に重大な変化が生じ、報酬の額を変更せざるを得ないというケースは、「職務の内容の重大な変更」によって報酬の額を変更したケースと似た事情にある、と言っても良いように思われます。合併によって異なる会社が一体となったケースや株式買収等によって他のグループ内企業になったというようなケースにおいては、そのような環境の変化による役員の報酬の額の見直しがあり得るように思われます。役員の報酬の額が会社の状況や従業員の給与の水準あるいは他の役員の報酬の水準等によって異なるということに関しては誰も異論はないはずであり、役員の置かれている状況に相対的な変化があれば、その変化を考慮して報酬の額を見直すことは、むしろ当然と言わなければなりません。このような見直しを行わないということであれば、従業員の給与水準の変化によって過大役員給与の問題が生ずるというようなことも無いとは言えません。

 「重大」かどうかという判断が残ることとなりますが、後に述べる「利益調整等」を目的とするようなものでない限り、「重大」でない事由によって、一旦、契約で決まっている役員報酬の額を変更するというようなことは行われない、と考えるのが常識的な判断ということになるように思われます。

 「やむを得ない事情」に該当するのか否かということに関しては、その判断基準が定められているわけではありませんので、「社会通念」や「常識」などによって判断することとなりますが、具体的なケースで考えてみた方が分かり易いと思われますので、冒頭の二つの問題のケースを想定しながら考えてみましょう。

 冒頭の二つのケースだけを見たのでは、適切な判断が行い難いわけですが、これらのケースと前回の解説の最後に引用した「やむを得ない理由」及び「やむを得ない事情」の解説文のケースとの位置関係がどうなるのかと考えてみると、感触が分かってきます。

 仮に、これらの位置関係を10人の者に問うたとすれば、どのような結論になるのでしょうか。

 この質問に対しては、全員が冒頭の二つのケースはいずれも二つの解説文のケースの間に位置する、と答えるのではないでしょうか。

 筆者も、それが「社会通念」や「常識」に沿った健全な判断であると考えます。
 改めて言うまでもありませんが、冒頭の二つの問題のケースが上記の解説文のケースの間に位置するということは、冒頭の二つの問題のケースは、「やむを得ない事情」に含まれる、ということを意味します。

 このように見てくると、冒頭の二つの問題のケースも、「これらに類するやむを得ない事情」があるケースと考えてよいように思われますが、平成19年度税制改正の解説において初めて語られた「利益調整等の恣意性」の有無に関しても、判断が必要となります。これに関しては、既に述べたとおり、灰色を白色と取り扱う柔軟な考え方が採られているわけですが、この判断を抜きにして結論を出すことはできません。
 この点に関しては、冒頭の二つの問題のケースがその内容から察するといずれも「利益」や「所得」の有無とは関係のない事柄で報酬の額を変更するものと推測されますので、冒頭の二つの問題のケースに「利益調整等の恣意性」はないと判断して良いように思われます。

 以上のような点からすると、冒頭の二つの問題のケースは、いずれも「臨時改訂事由」に該当するものと解するのが相当ということになるように思われます。

 税務執行当局が課税を行う場合には、その課税が法令の正しい解釈に基づくものであることを示す必要がありますので、実務において、「臨時改訂事由」に該当するのか否かの判断に迷う場合には、本稿を持って、税務執行当局に照会を行ってみては如何でしょうか。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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