コラム

第五十八回目の専門家コラムは、SCS Global Consulting(s) Pte. Ltd.の、日本公認会計士の三谷誠敏先生と、日本税理士の島田弘大先生に執筆していただきました。お二方の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、シンガポールにおけるM&A関連の優遇税制と企業合併等の税制フレームワークについて取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚 です。

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シンガポールにおけるM&A関連の優遇税制
SCS Global Consulting (S) Pte. Ltd.
Partner 公認会計士(日本) 三谷 誠敏
Assistant Manager 税理士(日本) 島田 弘大
2014/9/16

1.M&Aに関する優遇税制(Tax Incentive)

 近時、日系企業によるM&Aにつきましても、シンガポール中間持株会社を利用したものが増えています。特に、シンガポールを含む、東南アジアの企業を対象としたM&Aについては、そのような傾向があります。

 しかし、シンガポールでM&Aの優遇税制の適用を受けるには、最終親会社がシンガポール法人である必要があるなど日系企業にとっては、難しい条件となっていました。 そのような背景で、シンガポール政府も日系企業を含む外資系企業によるM&Aの有効活用を促進すべく、2012年予算案にて優遇税制の内容及び適用対象範囲を拡大し、日系企業も、一定の条件を満たせばM&Aの優遇税制の適用を受けられるよう整備されました。

 2012年改正前は、直接買収もしくは完全子会社を通じた買収が対象とされていましたが、2012年予算案にて、2012年2月17日から2015年3月31日までに行われたM&Aに関しては、直接保有の完全子会社だけでなく、孫会社以下の完全子会社を通じた買収についても対象範囲となっています。また、最終親会社がシンガポール居住法人であることという要件が緩和され、Economic Development Board (EBD) もしくはManetary Authority of Singapore (MAS)の承認を受ければ、最終親会社はシンガポール法人でなくてもよいと改正されています。さらに、株式取得関連費用の200%控除が認められるなど優遇措置も拡充されています。

 2012年改正後のM&Aに対する優遇措置は下記の通りです。

  • 買収金額の5%相当(ただし、上限SGD5,000,000)をアローワンスとして計上して5年間で均等償却をして、損金算入できる。つまり、買収金額がSGD100百万までであれば、5%のアローワンスを享受することができる。
  • 印紙税が免除される(上限SGD200,000)。
  • 取得関連費用について、200%の控除(各賦課年度上限SGD100,000)ができる。取得関連費用には、弁護士費用、会計・税務アドバイザリー費用、ターゲット会社の評価費用など買収のために必要となるものが含まれる。一方で、買収のための資金借入に係るArrangement feeは対象外となる。

 上記のM&Aに対する優遇措置の適用を受けるための要件は下記の通りです。

  • ① ターゲット会社の株式保有要件
    • 買収によって50%以上の株式を保有する結果となること。
    • 既に買収前に50%超保有している場合は75%以上の保有となる買収であること。

  • ② 買収会社に関する要件
    • 買収会社がシンガポール居住法人であること(2012年予算案にて、EDBもしくはMASの承認を受ければ、最終親会社はシンガポール法人でなくてよいと改正。)
    • 完全支配関係(100%)があれば子会社および孫会社を通じた買収でも可能(2012年予算案にて改正)。
    • 買収会社が買収時に事業を行っていること。
    • 買収会社について、買収以前1年以上を通じて3人以上の従業員(取締役は除く。)が存在していること。
    • 買収以前少なくとも2年に渡ってターゲット会社と関与していないこと。

  • ③ ターゲット会社に関する要件
    • ターゲット会社が買収時に事業を行っていること(ターゲット会社はシンガポール法人でなくてもよい)。
    • ターゲット会社について、買収以前1年以上を通じて3人以上の従業員(取締役は除く。)が存在していること。

 なお、このM&Aに対する優遇税制は過年度に生じた課税所得と相殺して繰戻還付することができないとされています。一方で、一定の要件を条件に、将来の課税所得と相殺するために繰越すことは可能、とされています。

2.シンガポールにおける企業合併等の税制フレームワーク

 M&Aにより買収した企業を吸収合併等する際においても、組織再編による課税関係が明らかになるよう税制フレームワークが整備されています。

 シンガポールにはもともと合併等に関する税制フレームワークが存在しませんでしたが、2009年予算案にて「合併等の税制フレームワーク(Tax framework for Corporate Amalgamations)」が発表されました。
それまでは、合併等があった場合、一定の場合を除き、被合併会社は事業を廃止もしくは資産・負債を売却したとされ、一方で合併会社は事業を新規で取得したとみなされました。固定資産や棚卸資産を時価で売却したと見做され、課税が発生したり、合併会社において、被合併会社の繰越欠損金を使用できないなど合併の阻害要因があり、実務界からの要請により税制が整備されることとなりました。

 当該「合併等の税制フレームワーク」では、事業の継続性を認めており、事業が廃止されたとは考えず、合併会社が被合併会社のリスクと経済的便益をそのまま引き継ぐことになると明記されており、繰越欠損金についても、一定の要件で、合併会社で引き継ぐことができるようになりました。

  • ① 適格合併(Qualifying Amalgamations)の定義
    「合併等の税制フレームワーク」における合併は基本的にはシンガポール会社法で定める合併とされており、下記②の通り税務当局に申請し、承認されれば税務上適格合併となります。
    シンガポール会社法における合併も日本と同様、吸収合併だけではなく、新設合併も範囲に含めています(シンガポール会社法215A条)。被合併会社から合併会社へ全ての権利義務について包括的に移転し、被合併会社については、清算手続きをせずに消滅することになります(シンガポール会社法215G条)。

    なお、具体的な合併の要件については、会社法215B条から同G条に規定されていますが、各合併当事会社の株主総会において、特別決議による承認を受けなければならないことや、株主総会の少なくとも21日以上前までに英字の日刊新聞紙に公告しなければならないなど細かく規定されています。
  • ② 適格合併等の申請及び簿価譲渡
    当該フレームワークは2009年1月22日以降に行われた、シンガポール会社法にもとづく合併である等、一定条件を満たす合併に適用されます。合併会社は、合併が行われた日から90日以内に所定の書面(合併理由等の記載や合併契約書の添付など)で税務当局に申請する必要があります。承認されると適格合併となります。
    適格合併の場合、被合併会社が保有する固定資産(Capital Account)及び棚卸資産(Revenue Account)は原則として、税務上の簿価で合併会社に引き継がれます。また、被合併会社の繰越欠損金につきましても、一定の条件(被合併企業の事業の継続性のテスト等)のもと、合併会社での使用が認められることとなります。
  • ③ 適格合併等に該当しない場合
    適格合併に該当しない場合は、通常の固定資産の売却、棚卸資産の売却と同様にシンガポール法人税法に基づいて計算することになります。

 

執筆者紹介

  • 三谷 誠敏
    SCS Global Consulting (S) Pte. Ltd.
    Partner 公認会計士(日本)

略歴

1996年
京都大学経済学部卒業
1996年-2001年
大手監査法人の日本、シンガポール、香港事務所で監査業務に従事
2001年
日系企業の海外進出に関するコンサルティング業務に従事
2006年-
現職では、日系企業の海外進出コンサルティング、シンガポールにおける会計・税務業務を実施している。

執筆者紹介

  • 島田 弘大
    SCS Global Consulting (S) Pte. Ltd.
    Assistant Manager 税理士(日本)

略歴

2007年
早稲田大学商学部卒業
2008年
大手外資系税理士法人にて、税務申告及び国際税務コンサルティングに従事
2011年
外資系証券会社にて税務及びFinance業務に従事したのち、現職にて、日系企業の海外進出及びアジアを中心としたクロスボーダーの組織再編などの国際税務コンサルティングに従事。

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