コラム

第五十七回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、役員の報酬の額の変更に関する法文の解釈について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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役員報酬の「臨時改訂事由」(前半)
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2014/8/15
会社が買収された場合に、株主から役員が報酬の減額を求められたり、また、組織再編成で異なる法人の事業が統合されたことに伴って、役員の報酬の水準を合わせるために、一方の法人の役員であった者の報酬が引き上げられたり引き下げられたりすることがあります。

 このような場合、役員の報酬の額の変更は、次の法人税法施行令69条1項1号ロの「臨時改訂事由」に該当するのか否かという問題を考えてみましょう。

  「ロ  当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(次項第二号及び第三項第一号において「臨時改訂事由」という。)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(イに掲げる改定を除く。)」

 この「臨時改訂事由」に関しては、次のような法人税基本通達9-2-12の3(職制上の地位の変更等)が設けられています。

  「 令第69条第1項第1号ロ《定期同額給与の範囲等》に規定する「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」とは、例えば、定時株主総会後、次の定時株主総会までの間において社長が退任したことに伴い臨時株主総会の決議により副社長が社長に就任する場合や、合併に伴いその役員の職務の内容が大幅に変更される場合をいう。
(注) 役員の職制上の地位とは、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により付与されたものをいう。」

 この通達の二つの例示は、一見、法人税法施行令69条1項1号ロの「その他これらに類する止むを得ない事情」の例示のように見えますが、「定時株主総会後、次の定時株主総会までの間において社長が退任したことに伴い臨時株主総会の決議により副社長が社長に就任する(こと)」は、その前の「役員の職制上の地位の変更」に該当し、また、「合併に伴いその役員の職務の内容が大幅に変更される(こと)」は、同じくその前の「その役員の職務の内容の重大な変更」に該当します。

 このため、このような通達の定め方から、一部には、法人税法69条1項1号ロの「役員の職制上の地位の変更」と「その役員の職務の内容の重大な変更」には、「やむを得ない事情」がなければならない、という誤解まで生じています。

 しかし、法人税法施行令69条1項1号ロの規定は、「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更」に続けて、「その他」という並列に事項を定めるための用語を用いて、「これらに類するやむを得ない事情」を定めていますので、「職制上の地位の変更」と「職務の内容の重大な変更」に「やむを得ない事情」が必要でないことは、明らかです。

 それでは、この「これらに類するやむを得ない事情」とはどのようなものを指すことになるのでしょうか。

 「類する」とは、特別な法律用語でもなければ特別な法令用語でもなく、一般に用いられるとおり、「似る」「共通性がある」という意味です。

 「やむを得ない」という用語も、一般に用いられるとおり、「仕方がない」という意味です。

  また、「事情」という用語も、基本的には一般に用いられるとおりの意味で用いられるものと考えてよいものであり、法令の規定において用いられる場合には、「事由」よりも因果関係にこだわらずに事実関係を述べる場合に用いられます。

 このように、個々の用語を見てみると、特に留意すべき事項は見受けられませんが、定義語として用いられている「臨時改訂事由」には、他にはない特徴が認められます。

 この「臨時改訂事由」は、「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」の定義語とされているわけですが、文理に即して規定を正しく読むと、「事情」を「事由」という用語で定義することとなっており、定義の仕方として適切ではないと言わざるを得ません。

 この点に関して、何故、そのような適切でない定義になっているのかということを探ってみると、「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」という文章が特殊な定め方になっていることに原因があることが分かります。

 すなわち、「職制上の地位の変更」と「職務の内容の重大な変更」は、「事情」ではなく、「事由」又は「理由」とすべきものであり(注1)、「事由」又は「理由」とすべきものが「その他」という用語を用いて「事情」と並列に定められているわけです。

 (注1)「事由」と「理由」は、同じものと考えて差し支えありません。

 「職制上の地位の変更」「職務の内容の重大な変更」と並列に並べてそれらを「・・・事由」と定義するという場合には、その並列に並べる文言は、本来は、「・・・事由」とすることになります(注2)。

 (注2)法人税法施行令69条1項1号ハにおいては、「その他これに類する理由」とされています。

 しかし、法人税法施行令69条1項1号ロにおいては、「その他これらに類するやむを得ない事由」ではなく、「その他これらに類するやむを得ない事情」とされているわけです。

 これは、「やむを得ない事情」という文言で示されるものを採用する明確な意図を持って法文が作られたことを意味しています。

 それでは、「やむを得ない事由」「やむを得ない理由」と「やむを得ない事情」とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

 内閣法制局に長年にわたって奉職された荒井勇氏の『税法解釈の常識』(税務研究会出版局)においては、「やむを得ない理由」と「やむを得ない事情」に関して、それぞれ次のように述べられています。

 

「 それ(「やむを得ない理由」:引用者注)は、「原則的なあり方としては本来認められないはずのものであるが、本人の責めに帰することが困難な特別の事情によって例外的な事態や取扱いを認めることとしてもいたし方のない理由」をいいます。その用例として、たとえば国税通則法第七十七条第三項では、「天災その他前二項の期間内に不服申立てをしなかったことについてやむを得ない理由があるとき」と規定していますが、この文章からみても、天災は、「やむを得ない理由」の一つの典型的な例です。
その他たとえば国税通則法第四十六条の納税の猶予に関する規定に掲げる猶予事由(病気、盗難、休廃業等)も、やむを得ない理由として法定されているものと考えられます。」(185頁)

  「 それから、一定の税務計算上の特例を適用するにつき、申告書への記載等を要件とする場合がかなり多いのですが、「その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、」税務署長がその特例の適用をすることができる旨の規定が各所でされています。この規定の適用については、今日の納税者の税法に対する知識の程度からいって、初回であれば、規定をうっかり知らないで記載せずに提出したようなことが考えられるので、かなり広く寛大に解釈してもやむを得ないのではないかと思います。
 すなわち、善意であって、むずかしい規定をよく知らなかったというような場合には、わが国の税務行政の現状からいって、「やむを得ない事情」に該当するものとして取り扱ってよいことが多いでしょう。」(185・186頁)

 これらの記述の比較からも、「やむを得ない事情」が「やむを得ない事由」「やむを得ない理由」よりも広く柔軟に解されるものであることが分かります。

 すなわち、法人税法施行令69条1項1号ロの規定は、法文作成の常識からすれば、「やむを得ない事由」又は「やむを得ない理由」とすべきところを「やむを得ない事情」とし、「やむを得ない事由」「やむを得ない理由」よりも、その適用範囲を広く柔軟に捉えることとなっているわけです。

(続く)

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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