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IFRS導入とM&Aにおける留意点
株式会社アミダスパートナーズ
2010/5/1

はじめに

 約10年前の「会計ビッグバン」(*1)と言われた会計基準の国際的調和化(ハーモナイゼーション)の動きの後、2002年のIASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)によるノーウォーク合意(*2)、2007年の我が国ASBJ(企業会計基準委員会)とIASBによる会計基準共通化に係る東京合意を経て、コンバージェンス(収斂)、アドプション(適用)の流れが決定的なものとなりました。更に、昨年6月、金融庁企業会計審議会から「我国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」が公表され、2010年3月期の連結財務諸表についてIFRS任意適用を容認したことからも、一層注目度が増しています。

 好むと好まざるとに拘らず、IFRS導入に向けた具体的な準備が必要な状況にあるといった新聞報道等も頻繁になされる一方、金融庁は、昨今のIFRSを巡る理解・認識状況について誤解が少なくない点を懸念し、異例ともいえる文書「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」を本年4月23日に公表しています。

 こうした中、本稿では、M&Aの領域に特に関係が深い項目(のれん、減損会計等)を中心に、コンバージェンスの動向を整理すると共に、M&Aにおける留意点について私見を申し述べさせて頂きます。

*1 我が国会計基準の国際的調和化を目的として、2000年頃に実施された会計基準の大改正のこと。連結重視(主たる財務諸表を単体から連結に変更、連結キャッシュフロー計算書の導入等)、時価会計の導入(金融商品会計基準、退職給付会計基準等の整備)、税効果会計基準の整備等を主な内容とするもの。
*2 国際会計基準(IFRS)と米国会計基準の統合推進に係る合意。

1.コンバージェンス動向の概観

 ASBJではコンバージェンスの計画表である「プロジェクト計画表」をほぼ定期的に公表しています。この計画表に示されている項目のうち、M&Aに関連が深いと思われる項目を中心に概観してみます。M&A案件はクロージングまで1年以上の時間を要するケースもあることから、図表1のような今後の改正動向にも留意することが望ましいものと考えます。

【図表1】
改正動向

 企業結合ステップ1では、持分プーリング法の廃止等の改正が実施され、ステップ2としては、のれんの非償却化及び少数株主持分の取扱い等が重要な論点として検討される予定です。のれんの会計と密接な関係がある無形資産についても、のれんと同時並行的に具体的な検討が実施されることとなります。また、財務諸表の表示については、包括利益の表示に関する会計基準の公開草案がリリースされ、本年6月までに最終化の方向です。

2.各項目の主な内容とM&Aにおける留意点

(1)企業結合関係(「無形資産」「引当金」含む)

① 「ステップ1」(*3)

1)持分プーリング法の廃止

 従来ではいわゆる「対等合併」といった企業結合においては持分プーリング法を適用することが可能であったのですが、持分プーリング法の廃止により、共同支配企業の形成や共通支配下の取引以外の企業結合についてはパーチェス法によらねばならず、そのような場合には、取得企業と被取得企業を判定する必要があります。判定基準については、「総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ」や「取締役等を選解任できる株主の存在」等が明示されています。実態面として我が国においては依然として「対等合併」が生じ得るとして、否定的な指摘もあろうかと思いますが、昨今のM&A動向等に照らせば、M&Aを巡る企業行動への影響は限定的なものと思われます。


2)負ののれんの会計処理

 負ののれんについては、従来は規則償却(20年内)とされていましたが、2008年改正により、全ての識別可能資産・負債が把握されているか否か、当該資産負債に対する取得原価の配分(パーチェス・プライス・アロケーション)が適切に行われているか否かを見直すことを条件に、負ののれんが発生した年度の利益として一括計上することとなりました

 識別可能資産・負債の認識計上が不適切な場合、期間利益及び分配可能利益が過大に計上され、違法配当に繋がる可能性もあり得る点、留意が必要になるものと考えられます。例えば偶発債務のリスクを負債として識別すべき場合に、これを省略すれば、期間利益は過大に計上される結果を招きます。

 この点に関連するのが、引当金に関する会計基準です。これまでの日本基準の場合、引当金に関する会計基準は存在せず、企業会計原則注解18にその認識要件(①将来の特定の費用または損失、②その発生が当期以前の事象に起因、③発生可能性が高い、④その金額を合理的に見積もることができる)が記載されているのみです。一方IFRSでは引当金に関する基準が存在すると共に、日本基準の計上要件の③に該当する蓋然性要件は削除される方向で検討が行われています。


3)PPA(パーチェスプライスアロケーション)の実施と無形資産の計上

 従来は、買収した事業に帰属する識別可能な無形資産等が含まれている場合には、買収対価を当該無形資産等に配分すること(PPA)は任意とされていましたが、2008年改正により当該無形資産等が識別可能なものであれば、原則として資産計上する必要があることとなりました。なお、無形資産に関する体系的な会計基準については後述「ステップ2」に委ねられ、のれんの非償却の論点と共に同時並行的に検討されることとされています。

*3 本年4月1日以降実施される企業結合及び事業分離等から適用(企業結合会計基準第57項、事業分離等会計基準第57-2項。なお、2009年度は任意適用を容認)。

② 「ステップ2」

1)少数株主持分の取扱い

 我が国の会計基準では、いわゆる親会社説の立場をとっており、連結財務諸表上、親会社の持分のみを反映させる考え方が採用されていますが、IFRSでは、企業グループを経済的単一体と捉え(経済的単一体説)、少数株主持分も連結財務諸表上、持分所有者として取扱います。「ステップ2」においては、親会社説を放棄し経済的単一体説へのコンバージェンスを行うことの是非が検討されることとなりますが、賛否両論あるようです。

 経済的単一体説が採用される場合、連結貸借対照表の株主資本には少数株主持分も含まれることから、例えば支配が維持される子会社株式の一部譲渡は、資本取引として捉え、売却益は認識されないこととなります。資本業務提携や戦略的アライアンスを検討する際には、留意が必要となる可能性があります。


2)のれんの会計処理

 IFRSでは非償却とされかつ減損会計の対象となります。日本基準においても減損会計の対象とされていますが、IFRSとの間には図表2のような主な相違点があることから、今後のコンバージェンスに伴い、相対的に減損損失が出やすくなる面があると思われます。

【図表2】減損会計を巡る主な相違点
減損会計を巡る主な相違点

 IFRSのような枠組みのもとでは、損失計上に係る判断の背景について数値的裏付けも伴ったかたちでの説明責任が従来より高まる可能性がある点、特に留意が必要になろうかと思います。 また、PPAの実施において、買収した事業から生み出されるキャッシュフローの源泉について、従来に比べて緻密に分析し、商標、ロゴ、顧客リスト、仕掛中の研究開発、ロイヤリティ契約、競業避止義務契約等といった無形資産の存在を認識・測定することも必要となります。なお、無形資産も減損検討の対象となる点に留意が必要です。

 以上のような点に鑑みますと、M&A検討段階において、そもそも何故買収するのか、何を買収することとなるのか、また、あるべき買収条件はどういう姿なのか、従来にも増してより慎重な分析と判断が求められることと思われます。とりわけデューディリジェンス(以下、「DD」といいます。)実務においては、ビジネスDDを中心とした財務・法務等の各種DDも含む総合的な検討がこれまで以上に重要度を増し、DD実施段階からPPAを意識することが必要になるものと考えられます。


(2)財務諸表の表示(包括利益)

 包括利益の表示を巡る近時のコンバージェンスの動きに伴い、いわゆる持ち合い株式の時価評価損益が損益計算書に計上され、毎期の業績はこういった時価変動の影響を受けることになる、また、従来の「当期純利益」の概念がなくなり「包括利益」しか表示されなくなる、といった捉え方が見られますが、これには少々誤解があるようです。

 包括利益の表示に関するコンバージェンスを行う目的は、純資産と包括利益との間のクリーン・サープラス関係を明示し、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高めることにあるものと考えられます(2009年7月10日ASBJ公表「「財務諸表の表示に関する論点の整理」の公表」【論点1】)。

 昨年12月にASBJから公表されている公開草案「包括利益に関する会計基準(案)」によれば、包括利益の表示は、当期純利益を明示しつつ、その計算区分とは別に、少数株主損益調整前当期純利益に「その他の包括利益」を加えるかたちで包括利益が表示される構造となっています。そして、「その他の包括利益」にはその他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、持分法による持分相当額等が含まれ、持ち合い株式の時価評価損益は当期純利益ではなく、「その他包括利益」に計上することができる方向にあります。

 なお、戦略的アライアンスに伴い保有する持ち合い株の保有意義について、継続的にモニタリング等することは、財務諸表の表示の如何に拘らず経営管理上重要性が高いものであることには変わりありません。

3.むすび

 減損会計に関連して説明責任の重要性に触れましたが、そもそもIFRSでは原則主義がとられているため、財務諸表の作成にあたっての判断を原則に照らしつつ自社独自の視点で行うと共に、その説明の重要性がこれまで以上に増すといわれています。コンバージェンスないしアドプションの当初においては少なからず負担感や混乱が生じることもあろうかと思われますが、かといって“IFRSの適用を余儀なくされる”といったような消極的な姿勢ではなく、むしろ、IFRS導入を契機にこれを積極的に活用する姿勢が強く望まれるものと考えます。

 アジア・パシフィックの主要国、例えば中国、韓国、インド、オーストラリア等との経済的な関係は深化する一方である中、IFRSとのコンバージェンスないしアドプションにより、これらの国々の企業との比較可能性が確保される点は、日本企業にとってもメリットと捉えることができます。また、のれんや無形資産等の減損リスクについても積極的にモニタリングないしコントロールする仕組みを整備することを通じて、買収シナジー実現の営みに役立てるといったことも検討に値するものと考えられます。

以上

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