コラム

第四回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所パートナーの原田充浩先生に執筆していただきました。原田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、MBOや親会社による上場子会社の完全子会社化等、一般株主との間で利益相反が生じ得るM&A取引を検討する際の法的留意点のうち、検討の初期的段階から注意すべき点を取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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一般株主との間で利益相反が生じ得るM&A取引を検討する際の法的留意点
西村あさひ法律事務所 パートナー
弁護士・ニューヨーク州弁護士 原田充浩
2010/3/15

  2007年9月に経済産業省より「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(「MBO指針」)が公表されてから約2年半が経過したが、現在に至るまで、レックス・ホールディングス事件、サンスター事件、サイバード・ホールディングス事件といったMBOに関する重要な裁判例が出る等、MBO及びMBOと同様の取引構造を有する取引に対する実務上の注目度・重要性は依然として高い。

 ここで、MBO(Management Buy Out)とは、現在の経営者(及び投資ファンド等の他の出資者)が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入する取引のことをいい、上場会社を対象会社とする案件においては、現在の我が国の実務上、まず出資者による対象会社の株式に対する公開買付けが行われた後、対象会社において全部取得条項付種類株式を利用した完全子会社化取引が実施され、最終的には、出資者が対象会社の100%の株式を取得する場合がほとんどである。

 MBOにおいて、出資者となる対象会社の取締役は、自らが対象会社の株式を取得する立場を有することから、法的観点からみた場合、MBOは、その取引の構造上、出資者たる対象会社の取締役の利益が対象会社の株主の利益と相反するという点に特徴があるといえよう。

 このような取引構造上の利益相反関係は、MBOのみならず、親会社が上場子会社を完全子会社化する場合等、支配会社と従属会社の関係にある会社間で組織再編が行われるような場合にも生ずると指摘されており、また、一般株主とは異なる利害関係を有すると考えられる大株主が存在する上場企業(いわゆるオーナー系企業等)に関連するM&A取引を検討する場合にも、同様の問題が生ずる場合がある。

 今回のコラムでは、MBO等、一般株主との間で利益相反が生じ得るM&A取引(「本件取引」)を検討する際の法的留意点のうち、検討の初期的段階から注意すべきと考えられる幾つかの事項について触れることとしたい。

検討の初期的段階における関係者の利益相反関係の整理

 本件取引を検討する際には、取引構造上の利益相反関係に鑑み、MBO指針において、対象会社における意思決定の際に弁護士・アドバイザー等による独立したアドバイスを取得すること、公開買付価格につき独立した第三者評価機関から算定書を取得すること等の一定の実務上の工夫を施すべきであると提唱されている点が、まず第一に参考となろう。

 もっとも、近時のレックス・ホールディングス事件、サンスター事件といった裁判例(いずれもMBOに関する取得価格決定申立事件)が、これらの実務上の工夫の一部が施されたMBOに対しても取引の公正性に疑義を呈しており、対象会社は予定外のキャッシュアウトを強いられているという点に鑑みれば、MBOの公正性確保のための施策の一環として、検討の初期的段階から、利害関係を有するおそれがあると考えられる対象会社の役員(個別案件によって利益相反性の程度に差があり得るが、例えば、MBOにおける出資者の地位を有する対象会社の役員や、親会社が上場子会社を完全子会社化する場合における親会社の役員を兼任する上場子会社の役員等)を特定した上で、当該役員については、買主側と対象会社との間の協議(少なくとも、取引価格を含む取引条件に関する協議)に関与させないようにすべきであろう。

 なお、現在、東証が策定した「上場制度整備の実行計画2009」に基づいて有価証券上場規程が改正され、上場会社は、一般株主と利益相反が生じるおそれのない独立役員(社外取締役又は社外監査役)を1名以上確保することを求められている。従って、今後は、本件取引を検討するに際し、かかる独立役員が対象会社における検討チームの中心を担う場合が多くなると予想されるものの、独立役員が、買主側との間で取引価格を含む取引条件に関する初期的な協議を行うに際しては、例えば、平成20年の(株)シャルレの事案で問題となったように、協議のベースとなる対象会社の事業計画の作成過程に買主側が不公正な形で関与した事実がないか確認する等、事後的に取引の公正性に疑義が呈されることのないように細心の注意を払うことが必要となると考えられる。

大量保有報告書における保有目的欄の記載内容

 次に、若干テクニカルではあるものの無視し得ない点として、大量保有報告書における保有目的欄の記載内容に関する問題点について指摘しておく。  金融商品取引法上、上場会社の株券等所有割合が5%を超え大量保有者となった者は、株券等所有割合や保有目的等を記載した大量保有報告書を提出しなければならず、以後、株券等所有割合が1%以上増減した場合その他の大量保有報告書の重要な記載事項に変更が生じた場合には、変更報告書を提出しなければならない(大量保有報告制度)。

 本件取引の検討を行うに際しても、買主側が案件の検討を開始した段階で既に対象会社の株券等について大量保有報告書を提出している場合(例えば、親会社が上場子会社を完全子会社化する場合や株券等所有割合が5%を超える大株主が存在する上場企業を対象会社とする場合等)があるが、実務上、大量保有報告書の保有目的欄には、「純投資」や「政策投資」等と記載されている例が比較的多く、平成18年の金融商品取引法の改正により保有目的として記載を要することとなった「重要提案行為等を行うこと」等と記載されている例は希ではないかと思われる。

 このような状況下で買主側が案件の検討を進める場合、買主側は大量保有報告書における保有目的を「政策投資」等から「重要提案行為等を行うこと」等に変更したとして変更報告書を提出する必要がないかといった実務上困難な問題に直面し、金融商品取引法上、大量保有報告書/変更報告書の不提出等が課徴金の対象とされている中で、検討の初期的段階から、買主側の主観的意図・行動と大量保有報告書における保有目的欄の記載内容との整合性を保つために慎重な検討が必要となる場合も少なくないであろう。

 なお、現在、金融庁によるコーポレートガバナンスの強化に向けた開示の充実のための施策の一環として、有価証券報告書等において、一定の投資株式につき、銘柄ごとに保有目的を具体的に記載すること等を求める企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案が公表されている。従って、かかる改正案の施行後においては、大量保有報告書における保有目的欄の記載内容についても具体化が進展し、上記の問題が一定程度解消されることも考えられる。

結びに代えて - 検討の初期的段階からのリーガル・チェックの重要性

 以上の他にも、例えば、インサイダー取引の発生を防止するために社内で適切な情報管理体制を構築すること等、検討の初期的段階から法的に留意すべき事項は幾つも存在するが、これらの法的留意点を見誤ると、一定のコストをかけて検討を開始したM&A取引が途中で頓挫するといった事態が生ずるにとどまらず、不適切な初期的対応に伴い、M&A取引の検討を開始した企業自体が、思わぬところでリーガル・リスクやレピュテーショナル・リスクに晒されることにもなりかねない。

 このようなリスクを未然にかつ個別事案に即した形で適切に回避するためには、検討を開始した初期的段階からリーガル・チェックを実施することが不可欠であろう。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー
    弁護士・ニューヨーク州弁護士
    原田充浩

略歴

1999年
東京大学法学部第一類卒業
2006年
ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)
2006-2007年
ニューヨークのサリヴァン・アンド・クロムウェル法律事務所(Sullivan & Cromwell LLP)にて勤務

主な著書

「敵対的M&A対応の最先端」商事法務
「『有事』に際しての企業防衛戦略 - ユシロ・ソトーの経営権争奪戦を機縁として - 」旬刊商事法務

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