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グループ内における組織再編について -親子間取引に関する手続き上の留意点-
株式会社アミダスパートナーズ
2010/3/1

1.はじめに

 企業競争力を高めるための事業再構築、重複事業の統合によるコスト削減や財務効率の向上、コンプライアンス対応等を目的としてグループ内組織再編は頻繁に行われている(*1)。

 グループ内での組織再編は、簡易組織再編や略式組織再編に該当し、株主総会の承認が不要となるケースが多く、手続きが簡略化されることもあるが、ディールキラーとなり得る重要なポイントは幾つかあり、本稿では親子会社間における事業統合(合併、会社分割等)のケースを想定した場合の留意事項について2つのポイントに絞って取り上げる。

*1 レコフ調べによれば、日本企業が当事者となるグループ内M&A(グループ内であっても上場企業同士は除く)は2009年1年間に958件が行われており、1990年の118件、2000年の768件と比して増加している。(「MARR」2010年2月号23頁)

2.実務上の留意点

(1) 簡易組織再編を妨げる会計上の損失
 合併や会社分割を行う際には原則として株主総会の承認を必要とするが、合併会社や分割対象事業の規模が小さい場合は株主に及ぼす影響が軽微であるために、簡易合併や簡易吸収分割等の簡易組織再編として株主総会の承認が不要となる(*2)。また、100%の資本関係下にある会社間での合併や吸収分割は、合併や分割の対価として株式や金銭の交付を行わない所謂、無対価組織再編として行われる場合が多く、無対価組織再編として行う吸収合併における存続会社及び吸収分割における分割承継会社は、合併消滅会社や分割承継資産の規模に係わらず簡易組織再編の規模要件を充足するため、簡易組織再編を採りやすいといえる。

 しかし、簡易組織再編の規模要件を満たす場合であっても、当事会社に合併差損や分割差損が生じる場合には簡易組織再編の手続きを採ることができず、株主総会の特別決議による承認が必要とされている(*3)ので注意が必要である。

 合併差損や分割差損が生じる場合とは、合併存続会社、分割承継会社の貸借対照表において以下に該当する場合である。

合併差損や分割差損が生じる場合

 具体的に差損が生じる場合として、債務超過会社との合併の場合や吸収分割における承継対象負債の額が承継対象資産を上回る場合等が知られているが、差損が生じる場合の内で特に留意すべきは、抱合せ株式消滅差損が生じる場合である。抱合せ株式消滅差損は、親会社での子会社株式帳簿価格が子会社の純資産のうちの当該親会社持分に相当する額を上回っている場合(子会社で欠損が生じている場合には該当するケースが多いと思われる)に、親子会社間で合併や吸収分割を行うと発生する。

吸収合併の場合

吸収分割の場合

分割仕分け

 実際に、完全子会社を消滅会社とする吸収合併であって簡易合併の規模要件を充たしながらも抱合せ株式消滅差損が生じるために臨時株主総会を開催した事例(*4)や、簡易組織再編を行うことを決議、対外公表した後で抱合せ株式消滅差損が発生することが判明したために再編を取りやめた事例(*5)がある。一方で、上場企業の開示例においても簡易組織再編を決定するリリースと抱合せ株式消滅差損の発生による単体業績予想の下方修正のリリースが同時に発表されており、そのまま簡易組織再編を実行しているケースも多々見られる。しかし簡易組織再編の要件を欠いたままで株主総会決議を経ずに組織再編を行うことは、組織再編の無効事由にあたる可能性もあるため慎重な検討が必要である。

 なお、簡易組織再編の規模要件を充たしながらも親会社での子会社株式帳簿価格が子会社の純資産のうちの当該親会社持分に相当する額を上回っている場合に簡易組織再編を採るためには、連結配当規制適用会社となることを選択したり、親会社において子会社株式の帳簿価格を下げるなどの対応方法が考えられる 。

*2 吸収合併や吸収分割に際して、当事会社の一方が他方の議決権の90%以上を有している際に、被支配会社においては原則として株主総会決議が不要となり、これを「略式合併」「略式吸収分割」という。これは会社規模ではなく資本関係に着目した簡易な組織再編の一つであるが、本稿では特に言及しない。
*3 この場合の他、対価として発行する株式が譲渡制限株式であって合併存続会社や分割承継会社が非公開会社である場合も簡易組織再編は採れないこととされている。
*4 完全子会社を吸収する吸収合併であって簡易合併の規模要件を充たしながらも抱合せ株式消滅差損が生じるために臨時株主総会を開催した事例として、(株)キタムラ(2008年10月14日リリース)
*5 連結子会社との間で簡易吸収分割を行うことを予定していたところ抱合せ株式消滅差損が生じることが見込まれるために吸収分割を中止した事例として、(株)ソディック(2009年5月20日リリース)
*6 なお、債務超過の子会社について増資によって債務超過を解消しただけでは、親会社での帳簿価格も同額増額し、親会社での子会社株式帳簿価格が子会社の純資産のうちの当該親会社持分に相当する額を上回っている状態は解消されないために、抱合せ株式消滅差損の発生は回避できない。

(2) 反対株主の株式買取請求権

 組織再編行為を行う多くの場合、組織再編に反対する当事会社の株主には、会社に対して自己の所有する株式の買い取りを請求する権利(株式買取請求権)が発生する。近時、上場会社の組織再編に際して、この買取請求権が行使される事例が目立っている(*7)。

 この背景の一つとして、株式買取請求権の行使に基づき株式を売却した場合は、売却益がみなし配当課税の対象となるため、法人株主にとっては市場で売却した場合に比して税務面でメリットがあることが指摘されている(*8)。

 また通常の自社株買いと異なり、当事会社に分配可能額がない場合や株主総会で自社株買いの承認を得ていない場合であっても当事会社に株式を買い取らせることができることや、一定量の株式の処分が可能なことより、濫用的、機会主義的ともいえる株式買取請求が行われている可能性もあるのではないかと思われる。

 こうした問題に対応するために、一定以上の株式買取請求がなされた場合は組織再編を中止する旨を吸収分割契約に定めた事例もあり(*9)、株式買取請求権の行使への対応として、当事者が組織再編を行う利益に比して株式買取請求に応じる財務的損失が上回ると判断できる場合等に組織再編を中止する条項を設けることは一考に値する。

 しかしながら、株式買取請求権の行使期間は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までと定められているため、買取請求があったことを原因として組織再編の中止を決定することは効力発生の直前とならざるを得ず、その場合には、実務上の混乱が発生することも懸念される(*10)ため、組織再編の検討段階で買取請求権を行使する可能性のある株主の有無の検討や、買取請求権を行使する可能性がある株主がいる場合には秘密保持を約した上で、買取請求権の行使に係る意向を確認する等の事前対応を行うことも必要であろう。

 なお、買取請求に係る買取価格は「公正な価格」とされているが、会社と買取請求を行う株主との協議で価格が合意に至らない場合は、裁判所に価格決定の申立てを行うこととなる。裁判所の評価方法は必ずしも定まっておらず、見通しより高額となる可能性があることにも留意が必要である。

*7 特に規模が大きいものとして、電源開発に対するザ・チルドレンズ・インベストメントによる買取請求(発行済株式総数の9.9%、2008年10月31日リリース)、東京放送ホールディングス(TBS)に対する楽天による買取請求(発行済株式総数の19.8%、2009年4月1日リリース)、学習研究社に対するエフィッシモ・キャピタルによる買取請求(発行済株式総数の19.8%、2009年9月30日リリース)が知られている。この他にも多くの事例で買取請求権が行使されており、ジェイコム(2007年7月17日リリース)、長谷工コーポレーション(2008年5月2日リリース)、ファーストリテイリング(2009年8月26日リリース)、東宝(2009年9月18日リリース)等が挙げられる。
*8 参考文献:太田洋「日興コーディアルグループ株式買取価格決定申立事件東京地裁決定の検討」商事法務1869号(2009)4頁
*9 三井不動産が100%子会社の港エステートから一部事業を承継する吸収分割(2008年7月31日リリース)等
*10 株主の反対通知や株主総会を開催する場合での議決権の行使状況から、買取請求権を行使可能な株主は買取請求権の行使期間前に分る。

3.結び

 本稿においては、親子会社間において合併や会社分割等を利用した事業統合・組織再編における実務上の留意点について纏めたが、その他のグループ間の組織再編では有価証券届出書の提出等の手続き的ではあるが必要とされた場合の対応等、留意すべき事項が潜んでおりグループ内での組織再編であっても、思わぬ結果を招くことがあり得る。

 手続きの途中段階において、様々な問題点・対応事項が生じるなどして、当初予定していた効果が得られない事態が生じたり、より望ましい選択肢があることに気づかずに回避可能なコストを負担している場合も多いように思う。

 たとえ100%の資本関係内の組織再編であっても、取引において想定される問題点や留意事項を事前に検討の上、慎重に対応することをお勧めしたい。

以上

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