コラム

第二回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士法人アクト22の代表社員である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、法人税法における「取引」について、現物出資と現物配当を例として整理いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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法人税法における「取引」の捉え方
日本税制研究所 代表理事 税理士法人 アクト22 代表社員 朝長 英樹
2010/1/15

 法人税法の規定を解釈する場合には、法人税法において「取引」がどのように捉えられているのかということを正確に理解しておくことが必要となります。特に、資本金等の額の増加・減少を生じさせる取引や利益の分配に係る取引に関する規定に関しては、これが非常に重要となることがあります。
 これを現物出資と現物配当の例で見てみましょう。

1.現物出資における「取引」の捉え方

    現物出資は、仕訳で示すと、次のとおりとなります。

【出資者】 【被出資者】
(借方) (貸方) (借方) (貸方)
有価証券 ×××         資本金等の額 ×××
    資産 ××× 資産 ×××    
    譲渡益 ×××        

 現物出資の法人税法における処理は、法人税法22条2項の規定を適用して行うこととなることは、改めて言うまでもありません。法人税法22条2項は、「益金の額に算入すべき金額は、・・・資産の販売、・・・その他の取引で資本等取引以外のものに係る・・・収益の額とする」とされています。すなわち、資本等取引以外の取引に係る収益の額が益金の額となる、とされているわけですが、この「資本等取引以外の取引」とは、上記の仕訳で示した現物出資のどこを指すのかということが問題となります。

 「資本等取引」に関しては、法人税法22条5項において、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配(・・・)をいう」と定義されていますので、まず、この「資本等取引」が上記のどこを指すのかということを確認し、その後に、「資本等取引以外の取引」がどこを指すのかということを確認することとなります。

 上記の仕訳で示した現物出資のどこが「資本等取引」で、どこが「資本等取引以外の取引」かという点に関しては、基本的には、三つの考え方があり得ます。

 一つは、上記の行為の全体が「取引」であると捉えるものです。
 確かに、全体の行為を広義に「取引」と捉えることは可能ですから、このような捉え方も故無しとしないと考えられます。しかし、このように捉えるとすれば、この「取引」は資本金等の額の増加を含むこととなりますので、この取引から益金の額は生じないこととしなければなりません。

 この結論が妥当でないことは、言を俟たないところです。

 次の考え方は、出資者が資産を譲渡して有価証券を取得するという行為と被出資者が資産を取得して資本金等の額が増加するという行為のそれぞれを「取引」と捉えるものです。

 しかし、これらの行為は、そもそも「取引」とは言えません。「取引」とは、本来、相手がある行為を指すもので、いわゆる「内部取引」は相手がないものを特にそのように呼称するものです。現物出資が「内部取引」でないことは、改めて言うまでもありません。

 最後の考え方は、出資者が有価証券を取得し、被出資者が資本金等の額を増加させる行為と出資者が資産を譲渡して被出資者が資産を取得するという行為のそれぞれを「取引」と捉えるものです。このような考え方を採ると、出資者と被出資者は、それぞれ二つの「取引」を行うということになります。

 このような考え方には、上記の二つの考え方に対して指摘した問題点が存在せず、特段、他の問題点も、見受けられません。

 また、法令作成の実務の観点からしても、この最後の考え方が適切であると言えます。 法令の規定も、基本的には、文章構成は主語と述語から成っており、まず、主語が文頭に来るわけですが、上記の仕訳を例に取ると、出資者の側においては、「内国法人が有価証券を取得する」という行為と「内国法人が資産を譲渡する」という行為の二つがあり、他方、被出資者の側においては、「内国法人が資本金等の額を増加させる」という行為と「内国法人が資産を取得する」という行為の二つがあるということになります。法令の規定を思い起こして頂くと分かるとおり、出資者と被出資者の各行為は、法令において一つの文章として規定されることとはなっていません。

 すなわち、出資者の側を例に取ると、法令の規定においては、「資産を譲渡して有価証券を取得する」という行為を一つの行為としてその取扱いを定めるというようなことは行っていないわけです。仮に、このような行為を一つの行為として法令の規定を設けるということになると、「資産を譲渡して現金を取得する」という行為の取扱いなども定めなければならない、ということになります。

 法人税法は、所得の金額を課税標準とする税であるわけですが、この課税標準の計算の基礎となる益金の額や損金の額は、上記の仕訳の例で言えば資産の譲渡収益の額や譲渡原価の額であって、資産の譲渡益や譲渡損はこれらの額の差額として生ずることとなります。この譲渡益や譲渡損は、資産を交付する行為によって生じ、有価証券を取得する行為から生ずるわけではありません(受贈益に関しては、有価証券を取得する行為から生ずることとなります。)。すなわち、上記の例で言えば、資産の譲渡の対価が何であるのかということで譲渡益や譲渡損の金額が変わると考える必要がないため、わざわざ二つの行為を一つの行為と捉えて法令の定めを設ける必要がない、ということです。

 このように、法人税法においては、上記の仕訳を例に取ると、出資者が有価証券を取得し、被出資者が資本金等の額を増加させる行為と、出資者が資産を譲渡し、被出資者が資産を取得する行為とを「取引」と捉えて、その取引をそれぞれに出資者又は被出資者の側から「取引」と呼んでいる、ということになっているわけです。

 上記の仕訳の例に関する法人税法の規定は、「取引」を上記のように捉えることで、すべて整合的に理解されることとなります。

2.現物配当における「取引」の捉え方

 現物配当は、仕訳で示すと、次のとおりとなります。

【出資者】 【被出資者】
(借方) (貸方) (借方) (貸方)
資産 ×××         資産 ×××
            譲渡益 ×××
    配当収入 ××× 利益積立金額 ×××    

 上記1の結論を踏まえると、現物配当をどのように捉えるべきかということは、自ずと明らかになります。

 すなわち、被出資者が資産を譲渡し、出資者が資産を取得する行為と、被出資者が利益積立金額を減少させ、出資者が配当収入を得るという行為のそれぞれが「取引」ということになります。そして、その取引をそれぞれに出資者又は被出資者の側から「取引」と呼んでいる、ということになっているわけです。

 このように「取引」を捉えれば、現物配当に際して資産の譲渡益や譲渡損の計上が必要となることを確認することが可能となりますし、現物出資と現物配当の法人税法における取扱いも整合的なものとなります。

 改めて言うまでもありませんが、このように「取引」を捉えれば、現物配当は資本等の金額を減少させる取引であるため資産の譲渡益や譲渡損は計上されない、といった話にはなりません。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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